歩きながら会議をすると、さまざまな効用があるという。創造性の向上、仲間意識の強化、そして健康。本記事で示す実践のアドバイスをもとに、今日からでも試してみてはいかがだろうか。
フラン・メルメドは、コミュニケーションと変革マネジメントを支援するコンサルティング会社、コンテクストの創業者である。さまざまな組織に出向いてコミュニケーションの有効性を審査し、クライアントと会議をしながら日々を過ごしている。となれば、ずっと座って働いているという印象を受けるが、実は逆だ。フランは最近広がりつつあるトレンド、「ウォーキング会議」を実践している。
ウォーキング会議とは読んで字のとおり、一般的な会議の場であるオフィスや役員室や喫茶店を使わず、歩きながら行う会議のことだ。HBR寄稿者のニロファー・マーチャントは「『座りっぱなし』は喫煙と同じ? 散歩会議のすすめ」で、この習慣について書いている。彼女は多くの米国人と同様、仕事中はかなりの長時間座っていた。それを自覚して、喫茶店での会議をウォーキング会議に変えると、すぐにそのメリットを実感したという。メルメドもまた、会議の一部を歩きながらやるだけで、効果的な文章を書くために欠かせない「テクノロジーから解放される時間」を持てるようになった。
最近の研究によれば、歩くことは創造的思考を促進する(英語論文)。これはウォーキング会議の有効性を明らかに後押しする要因だ。そして従来の着席式よりも、忌憚のない意見交換と生産性の向上につながることが、多くの事例で示されている。
こうした知見をふまえ、我々は歩くことのメリットをもっと探るために調査を行った。米国で働く社会人約150人にアンケートを実施し、ウォーキング会議と仕事習慣についての意見を集めた。結果を簡潔に言えば、ウォーキング会議を取り入れている人はそうでない人に比べ、「仕事においてより創造的になれる」と報告する割合が5.25%高かった。さらに、「認知力(つまり集中力)が高まる」という報告の割合も、実践者のほうが8.5%高かった。
この調査結果は、ウォーキング会議が労働者にもたらすメリットをいっそう裏づけている。創造性が5.25%高まることが、ビジネスの成否を左右するほどの要因かといえば、おそらくはノーだ。しかし、この結果を費用対効果の観点から見るとどうだろう。日常的にウォーキング会議をすることで生じるコストは、ほとんどゼロである。ウォーキング会議は休憩ではない。オフィスに座ってであれ、オフィス街を歩きながらであれ、その会議はどうせやらなくてはならない。創造性や集中力を多少なりとも高める手段として、これほど安上がりなものはあるだろうか。
上記のような効果は、なぜ生じるのか。米医療機関カイザーパーマネンテのトータルヘルスセンターで院長を務めるテッド・イータン医師は、ウォーキング会議の積極的な推進者であり、いくつかの見解を示している。まず神経科学の観点から、歩行中には特定の脳内物質が分泌されるので、脳がよりリラックスした状態になるという。これは脳の実行機能、つまり仕事への集中や予想外の出来事への対処などをつかさどる機能の働きを助ける。我々のアンケート調査でもそれを裏づけるように、「歩行中に創造的なひらめきの瞬間があった」という回答が見られた。
さらにイータン医師は、ウォーキング会議によって上司と部下、および同僚同士の間の壁が取り除かれ、従業員エンゲージメントが高まると考えている。同僚との出張中にはある種の絆が生まれるが、ウォーキング会議ではそれと同じことがより小規模で起きるのだという。
オラクルの製品開発担当シニアディレクターであるデイビッド・ヘイムズは、チームメンバーとの会議でまさにそれを体験している。「隣合わせに並んで歩くと、オフィスでの会議よりも対等な会話が成り立ちます。オフィスで私と彼らが机を挟んで向かい合うと、組織での上下関係がより強く表れます」
確かに、あらゆる会議がウォーキング中にできるわけではないし、物理的にそこに参加できない人がいる場合もある。資料やホワイトボードが手近にないと困る時もある。真剣な交渉では、顔を突き合わせる形がふさわしい。
ウォーキング会議に最も適しているのは、何かの判断や意思決定について話し合う時や、解決法を探るような時である。事実、我々のアンケート調査でも、管理職・専門職の立場にある人は、技術職・事務職の人よりもウォーキング会議によって創造性が高まる度合いが高かった(とはいえ、どの職種でも何らかのメリットが得られてはいる)。