先行者として最大の利益を狙うか、より堅実な追随者となるべきか。ドイツの携帯機器市場を対象とした研究によれば、「イノベーションの範囲」、つまり新製品をたくさん出すか絞り込むかによって、先行か追随かを選ぶべきであるという。
新製品を世に出すにあたり、企業は先駆者になるべきだろうか、それとも追従者になるべきだろうか。これは一部の事業において、常にジレンマとなる問題である。
他社に先駆けて製品を出せばより多くのリスクに直面するが、そのイノベーションが成功だと判明したあかつきには大きな見返りが得られる。これに対し二番手の企業は、より安定したリターンが見込める。だが待つ時間が長ければ長いほど、最大の利益はより大胆な企業のものとなっている可能性が高い。発売のタイミングとして、どちらの戦略が優れているのだろうか。
我々の研究からは、どちらのアプローチも成功しうることが示されている。最も重要なのは単にタイミングを計ることではない。先行か追従か、選んだいずれかのアプローチに合わせて自社のイノベーション戦略を調整することである。我々は、フィーチャーフォンが主流であった2004年から2008年のドイツの携帯電話機市場について研究を行った。当時は、機器にカメラなどの新機能を装備することが競争の中心であり、変化の激しい時期であった。
この欧州の一大市場における先駆者と追従者について調査したところ、どちらのアプローチも十分なリターンを得られることがわかった。だが、成功を収めた先行企業によるイノベーションの管理を、成功を収めた後発企業のそれと比べると、以下の4つの点で大きく異なっていた。
1.商品化するイノベーションの件数
ともに成功を収めた先駆者と追従者との大きな違いは、商品化したイノベーションの数である。追従者には大当たりによるリターンを得るチャンスが与えられないため、先駆者ほど多くの失敗を犯す余裕はない。プロジェクトを入念に選定して、成功をある程度確信できる限られたイノベーションのみを商品化しなければならない。
2006年当時、HP(ヒューレット・パッカード)は携帯機器市場で追従者として活発であったが、イノベーションの対象を絞り切れずにいた。オーディオ、動画、カメラを含むさまざまな機能を提供したが、それらはすでに市場にあるものだった。このうち一部の機能のみが一般に受け入れられたが、投資利益率(ROI)は先行企業よりもはるかに小さかった。このため、成功に至らなかった機能への投資を埋め合わせることは困難であった。
これと対照的なのが、フランスの企業サジェム(Sagem)である。同社も先駆者に約2年遅れて新機能を実装したが、その範囲を絞り込んだ。ビデオ通話と多周波数帯対応という、2つのイノベーションに特化したのだ。これにより、イノベーションに対する投資利益率(新製品の収益に対するR&D支出の割合として算出)は、イノベーションの対象を絞らなかったHPやその他の追従者のほぼ2倍であった。
携帯電話機市場の初期における典型的な先駆者であるサムスンも、2006年は大成功の年であった。この韓国の巨大テクノロジー企業がリリースした10以上もの機能の多くは大失敗に終わったが、最大4GBのストレージ容量とマルチメディアの新機能を初めて実装し、他社が追従する前に莫大な利益を得ることができた。失敗に終わったイノベーションを補って余りある大当たりだ。
結果、サムスンのように取り組み対象が幅広い先行企業のイノベーションの投資利益率は、サジェムのように対象を絞って成功した後発企業とほぼ同程度となっている。
イノベーションの対象を限定しながら、先駆者として市場に参入する企業は、非常に大きなリスクを抱えることになる。たとえばモトローラは、2006年、第3世代携帯電話のデータ通信規格であるHSDPA対応の電話機に特化して商品化を行った。これは技術的には高度であったが採算が合わず、その損失を埋め合わせる他の機能をあまり発売していなかった。
下図は、フィーチャーフォンの時代における携帯機器メーカーについて、新機能の数と発売時期を相対的にグラフで表したものである。イノベーションの範囲と発売のタイミングのバランスが良い企業が、より成功を収めていた。