2.事前調査に費やす時間

 先駆者と追従者の違いとしてもう1つ顕著だったのは、市場投入前の調査にかけた時間であった。あまりに多くの事項を検討しすぎると、出足が遅れてしまう。先駆者は、どんなに精緻なビジネスケース(商業的な妥当性を示す材料)があっても、先陣を切ることの不確実性は取り除けないと承知している。このため、状況を正確に把握することよりも先行することに重点を置き、イノベーションが大当たりした時には大儲けしようと考えている。

 これと比較すると、追従者がイノベーションから得る利益は小さく、失敗を埋め合わせうる大当たりは見込めない。成功する追従者は、ビジネスケースの精査により時間をかけ、仮説が正しいことを立証しようと試み、確信が持てた場合にのみプロジェクトを進める。つまり先行することよりも、間違いを犯さないことを重視している。

 3.イノベーションへの関与

 先駆者のほうが追従者よりも、イノベーションに重点を置いているようであった。先駆者は市場に素早く参入しなければならないため、開発陣の邪魔はしない。イノベーションに取り組むチームは、自社はなんとしても新機能を市場に出してくれるはずだという信念の下、安心して計画を立てられる。潜在的な反対派に邪魔される心配はしなくてよい。たとえ反対派の批判が結果的に正しいケースがほとんどであるとしても、まれに間違っている時もある。その数回こそが、先駆者としてのイノベーションの成功につながるのだ。

 追従者はもっと用心深い。先行企業によって発売された機能の成果を見守る時間の余裕があるため、イノベーションの取り組みを成り行きに合わせて調整できる。成功を収める追従者は先行者よりも、開発段階で打ち切るプロジェクトの数が多い。したがって最終的に発売へと至る機能は、成功を収める可能性が高い。

 4.報酬制度

 従来型の報酬制度では、イノベーションを担うマネジャーは、無事に製品化へとこぎつけることで報酬を得るのが一般的だ。これは、スピードが命の先駆者には有効となる。

 だが、先行企業の過ちを回避することで優位に立とうとする後発企業においては、大きな損失につながりかねない。プロジェクトの完了が給与額に連動するマネジャーは、問題あるプロジェクトに対する懸念が表明されても、それを却下して進める強い動機を持つことになるからだ。このため追従者は、プロジェクトの完了よりも実験が重視されるように報酬制度を工夫すべきであり、プロジェクトの中止に対するペナルティをなくす必要がある。

 当時の活気に満ちた携帯電話業界に関する我々の研究は、次の結果を示している。先行そのものに明らかな優位性があるわけではなく、追従者も先駆者と同様に成功を収められるのだ。最も重要なのは、市場投入のタイミングによって不確実性と利益の規模が違ってくるという点を認識することだ。どちらのタイミングを望むにしても、それに見合ったイノベーション戦略を構築しなければならない。


HBR.ORG原文:When First Movers Are Rewarded, and When They’re Not, August 11, 2015.