ウェアラブル、体内埋め込み型機器、遠隔医療などの技術は、医療業界に破壊的変化をもたらす可能性を秘めている。医者と患者の関係が一変し、業界外から多数のプレーヤーが参入し、収益構造が変わる――こうしたシナリオがすでに進みつつある。
医療は病院を飛び出す
医療を受ける場所は診療所か病院のみ、という概念は数年後には時代遅れになっているだろう。ウェアラブル技術、インプラント(体内埋め込み型)機器、そしてスマートフォンのアプリで継続的なモニタリングが可能になり、健康状態を毎日24時間どこにいてもデジタル画像化でき、どこからでもリアルタイムでそれにアクセスして分析できるようになる。
診療室の外での医療を後押しする要因は、データ収集だけではない。テレメディスン(遠隔医療)、在宅診断、そしてリテールクリニック(スーパーマーケットや薬局などに併設されている簡易診療所)の普及に伴い、生活の場や職場で治療を受ける患者が増えている。次の10年間で、こうしたトレンドは患者データと消費者の選択肢の面で紛れもないゴールドラッシュを生むことになるだろう。
収益の増加、コスト削減、そして顧客ロイヤルティ獲得のいずれもが実現できるチャンスを前に、消費財メーカーからデジタル/モバイルのテクノロジー企業に至るまで、さまざまなプレーヤーが分け前を必死で狙っている。1840年代のゴールドラッシュになぞらえ、我々は今後2つのビジネスモデルが台頭していくものと考えている。まず、医療における特定の分野を深く掘り下げていく「金鉱掘り(Goldminer)」型。そして、消費者の日々のニーズに対応すべくカスタマイズされた便利なオプションを提供する、「バーテンダー」型だ。
「金鉱掘り」戦略の典型としては、垂直に連携したプレーヤーたち(保険会社や病院などの大手医療関連機関および医師グループなど)が、医療サービスを最も頻繁に利用する人たちに向け、より優れた健康管理を提供することで医療価値を創出する。複雑な病状を抱えている人は全患者の3割を占めるが、彼らが全医療費の75%から80%を使っているのだ。これらの患者を対象に、モバイルでのコミュニケーションと遠隔モニタリングを通じて、ケアをより効果的に連動させてサポートを毎日提供する。地域のコミュニティにも働きかける。それによって金鉱掘り型の企業は、よりタイムリーで在宅型のケアを低コストで推進できる。
このアプローチは明らかに有望ではあるが、伝統的な医療サービスのあり方を技術によって拡張するというわかりやすいものだ。医療提供者が大部分の決定を下し、患者がその指示に忠実に従うという点では変わらない。