医療の「小売り業化」がはじまる
アップルのiWatchと〈ヘルスケア〉アプリは、継続的なモニタリングによって、健康という分野にさらなるイノベーションが生まれる途方もない可能性を拓くものだ。消費者がすでに夢中になっているアップルというブランドが提供元であることを考慮すれば、その有望性はひときわ強く感じられる。
バーテンダーモデルに基づくテクノロジーの進歩は、ヘルスケアの境界線を小売業界という新たな分野へと押し広げることにもなるだろう。たとえばドラッグストア・チェーンのウォルグリーンは、店内での診断機能を拡大するためにセラノス・テクノロジーと提携した。同社は指先を小さな針で刺して採取した血液サンプルで、検体検査を実施できる。
こうしたバーテンダー型のサービスを利用する消費者の存在は、従来型の医療提供者に対し、新たな方法で価値を示すよう迫ることになる。自分の健康データを所有し理解している患者は、あらゆる医療機会に接する時、(ネットからプリントアウトした数ページの情報ではなく)有意義で個別化された専門知識を備えている。クラウドメド(CrowdMed)のような専門家たちのフォーラムに、診断をクラウドソースする患者もいる。専門知識に誰もがアクセスでき、個々人に向けてそれがカスタマイズされるようになる時、既存の医療提供者は患者との関係を強化しニーズをより深く理解することで、より大きな価値を付加しなければならない。
バーテンダーモデルを採用している新興企業は、決して二流のプレーヤーではない。彼らは今後、医療における金の流れを根本的に変え、そのプロセスにおいて莫大な医療価値を創出するだろう。我々Strategy&は、米国の将来の医療産業バリューチェーンのプロフィット・プール(ある産業のバリューチェーンにおける各分野の利益の総和)について考察した。その結果、バーテンダーモデルを採用すれば2025年までに年間4,000億ドルの医療費を削減しうることが明らかになった。この数字は、金鉱掘りモデルが主流となるシナリオでの削減額のほぼ3倍に匹敵する。
金鉱掘りモデルは進歩ではあるが、それは現在の医療モデルの延長線上に続く漸進的な進歩だ。対照的にバーテンダーモデルは、現在標準となっている画一的なケアと中央集権的な診療体制に鋭く挑むことで、業界の変革を加速させるだろう。
HBR.ORG原文:Personalized Technology Will Upend the Doctor-Patient Relationship June 19, 2015