言葉で定義するのは難しいけど、確実に感じる概念がある。「いい人」という表現は、まさにその典型例である。曖昧な表現ゆえに言語化しにくいですが、「いい人」の価値は計り知れない。
言葉にしづらいけど、だれもが実感する「いい人」
「ネコ」の定義を言える人は少ないかもしれませんが、実際に見て、それがネコかどうかは小学生でも見分けることができます。
世の中には言葉で定義するのは難しいけど、実物を見たら「これだ」と確信できるものは多いです。そのいい例が「いい人」です。「いい人」の定義と言われると困ってしまいます。親切な人、思いやりのある人、正義感のある人、周りのことを考えられる人、誠実な人・・・・。いくつもの言葉が出ては来ますが、それらすべてが当てはまる人か、それとも一つでも該当すれば「いい人」なのか。判断する側の主観も多分に入ります。
しかし「いい人」と言われている人に会うと、素直に「いい人だ」と納得するものです。なぜその人がいい人なのか、説明しにくく、言葉にしたら陳腐なのだけど「いい人」と断言できる――そんな人があなたの周りにもいるんじゃないでしょうか。
今年の8月に「ほぼ日」の東京糸井重里事務所が求人広告を出しましたが、そのタイトルが「いい人募集」でした。一般的な求人広告と比べると何とも曖昧な表現です。そして、募集要項を読み進めると、糸井重里さんが「社長のあいまいな挨拶」というタイトルをつけて、この募集への思いを書かれています。その冒頭は「『いい人』と言われても困りますよね」。
「いい人募集」と掲げながら、糸井さんもその定義は簡単ではないと。でも自分が思う「いい人」を、具体的な行動の例などもあげながら、誠実と貢献という2つの言葉とともに語っておられます。
この募集要項が素晴らしいのは、あいまいな概念だと認めながらも自分たちがほしい人材像は明確であることを表明し、それを手を変え品を変え、伝えようとしていることです。そして、なぜ「いい人」に拘るかを「『いい会社』になりたいから」と、企業の意思を表明されています。「いい会社」になりたいから「いい人」を、というのも禅問答のようですが、定義しにくいけど実際にある、と断言される。これは、多くの人が納得するのではないでしょうか。