「いい人」の効果は計り知れない

 「いい人」と一緒に仕事をするのは、実に気持ちのいいものです。仲間に助けてもらうことは、仕事が捗るという効率上のメリットもありますが、それ以上に人として嬉しくなる。仕事に求めるスキルはそれぞれで募集要項では、それらスキルや経験を問うことになりますが、やはり一緒に仕事をする相手は「いい人」がいい、と誰もが思うはず。

 「いい人」の効果は一緒に仕事をしていて気持ちがいいことだけではありません。「いい人」は伝播するのです。「いい人」を見て素晴らしいなと思ったこと、ああいうふうにできるといいなということを、自然と少しでも真似ようとする。子どもの表情やしぐさが、親のそれと自然と似てくるのと同じような現象です。「いい人」には、その振る舞いを広める不思議な力があります。

 もう一つの効果は、人は「いい人」を知ることで、「いい人」を見つけるスキルが磨かれることです。良質なものを知るには良質に触れること。触れる経験を積むことで、次の機会に良質なものを見抜き、出会えるチャンスが増えるのです。

 こうして1人の「いい人」が伝播し、多くの人の行動にも影響を与え、その職場が「いい職場」になる。つまり、組織の文化が「いい人」の影響を受けて変わっていくのです。そして、素晴らしい文化が素晴らしい人を引きつける。そして文化はそれがいいと思う人がいることで、継承されます。

 以前、チームラボの猪子寿之さんが「本当に面白いことは言語化できない」とお話しされていました。同じように、言葉にしづらいのが「いい人」ですが、確実に感じる。こういう「いい人」を集める文化こそ、模倣しにくい貴重な価値だと思います。

 蛇足ですが、2012年にグーグルは、膨大な写真データをコンピュータに読み込ませ、「ネコ」の識別に成功したと発表しました。機械が自ら概念(特長量)を学習し、ネコに共通する特徴を見出した深層学習(ディープ・ラーニング)の時代の到来を告げました。将来、膨大なデータと深層学習によって、「いい人」の抽出も可能になるのか。自分の身に置き換えると怖い気もしますが、「いい人」が社会のなかで自然と浮かびかがってくる助けになるのなら、素晴らしい進化ではないでしょうか。(編集長・岩佐文夫)