新部長のふたりは何を描いたのか

 ワークショップは絵の鑑賞、画材の説明、描き方の解説から始まりました。絵を描きなれていない参加者にとっては、格好のウォーミングアップになったようです。絵を描く覚悟ができたところで、テーマが発表されます。「働くうえで大事にしていること」。これを絵で表現するのが、参加者のミッションとなります。

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ライフネット生命社長・岩瀬大輔さん

 まずは、色とりどりの画用紙の中から、自分が使うものを選びます。ここから、すでに表現が始まっています。岩瀬さんは、迷わずライフネットカラーの黄緑を選択しました。中田さんも黄緑を手にしましたが、グレーに変更します。村岡さんはブルー、片田さんは紺色を手にしました。スーツ姿の岩瀬さんは、さっそく上着を脱いで臨戦態勢です。ほかの3人も、パステルを手に画用紙に向き合います。

 ワークショップは、この後、約45分程度、各々で描いてもらいます。その後、皆で一人ひとりの絵について感じたことを言い合い、最後に描いたご本人から絵に込めた思い、そして絵のタイトルを発表してもらう、という流れで進みました。

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片田薫さん

 片田さんはまず、右下の一角を青い色で塗り始めました。ちょうど、右下の角を頂点とした三角形を描くイメージです。そこから左上部に向かって緑、黄土色、黄色と三角形を広げていきます。まるで、何かを積み上げているように見えます。最終的に、積み上げたものは左上まで届きました。これは何を意味するのでしょうか。

 ほかの参加者から挙げられたのは「数学的」「ロジカル」「道を1歩」「ずっと歩く」「成長」「効率」「達成」「将来を見据えて」というイメージです。岩瀬さんは言います。

「すごく整理されていて、右肩上がりの成長も感じられますね」

 それを聞いた片田さんが口を開きます。

「私が仕事をするうえで大切にしているものは、信頼と誠実です。ひとつひとつのことを誠実に積み重ね、仲間を信頼し、自分も信頼してほしいという思いで描き始めました」

 でも、と片田さんは言います。描きながら新しい発見があったというのです。

「半分あたりまでは色を決めていましたが、そこから先に進めなくなってしまいます。そのとき、想定していなかった色を使ってみることで、急に全体が見えてきたのです。これは仕事に似ています。想定していない事態が起こったり、想定していない仲間が加わったりすることで、急に仕事がまとまって、先に進んでいけることがあるのです」

 想定外の要素が加わることで、信頼や誠実さは積み重ねていける。そう考える片田さんがつけたタイトルは、まさに「重なる」でした。

 村岡さんは、スタートと同時に中央に白い楕円を描きました。そこから、同心円状に広がるように緑、赤、黄色などカラフルな色を画用紙に乗せていきます。村岡さんの絵は最初から最後まで、この構図に変化はありませんでした。唯一の変化は、最後の最後で描き込んだ「足」のようなものです。この青い線は、それまでの積み重ねた秩序を少しだけ破壊するような印象を持ちました。その意図はどこにあったのでしょうか。

 片田さん同様、まずはほかの3人の印象を見てみましょう。挙げられたのは「中心」「宇宙」「こころの中の譲れない自分」などです。岩瀬さんは言います。

「中心があって、周りが規則的に広がる構図。求心力があるように見えました」

 村岡さんが大事にしているのは「思い」と「チームワーク」だといいます。

「中心の白は自分です。そして上の部分は成功で、下の部分は失敗です。最後に描き込んだ青い足は、成功への道を支えてくれる仲間の力です。この絵は、下から上に上がっていくイメージですね」

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村岡道代さん

 さらに、村岡さんは絵で表現したかった仕事の成功へのイメージを語ります。

「やりたいことを真っ白な状態で考え、見込みが立つと緑色の嬉しい気持ちになる。でもそこから赤い色で表した情熱をもって突進していかないと、なかなか実行までもっていけない。そこまで行くと、ようやく黄色い光が見えてくる。ただ、それは自分だけでできるわけではなく、周りの仲間が支えてくれる。そんなイメージですね」

 これを聞いていた岩瀬さんは、思わず「ロジカルだなあ」とつぶやきます。

 自分が一生懸命やろうとしても、環境やタイミングには逆らえない。村岡さんはそう言います。だからこそ、仲間を含めた「流れ」をうまく使っていくことが大切だという意味で、タイトルも「流れ」としたそうです。