だが、アクティビストの襲来を受けた企業には、その後何が起きるのだろうか。
デューク大学、コロンビア大学、コーネル大学の研究者たちによる新たな論文は、この疑問に実証的に答える最新の試みである(英語論文)。彼らは、1994~2007年における米国の製造工場に関するデータに加え、ヘッジファンドが中~大規模企業の株式の2%以上を取得した事例を収集。2つのデータセットを照合することで、ヘッジファンドの介入に影響を受けた368の製造工場を特定することができた。アクティビストが非生産的な資産を売却させたケースもあれば、戦略の変更を求めたケースもある。
アクティビストのターゲットとなった企業が所有する工場は、介入前は同業他社よりも業績が悪い傾向にあったが、介入から3年後には実質的に上向いていた。アクティビストの接触を受けなかった同様の工場より、生産性も総資産利益率(ROA)も高くなった(本論文の研究チームのうち2名による別の論文では、工場ではなく企業の場合でも、アクティビストの介入後はR&D支出が減ったにもかかわらず、イノベーション〈特許の出願数および被引用数〉が高まったとしている〈英語論文〉)。
したがって大規模投資家は、資源を効果的に配分し、企業の効率を向上させ、ひいては経済全体に貢献している――というのがここまでの話である。かつてジョー・バイデン副大統領の首席エコノミストであり、現在は米シンクタンクの予算・優先政策センター(CBPP)上級研究員のジャレッド・バーンスタインは、次のように述べる。「複数の研究でこのような発見が示されていることから、実質的な経済変数を引き上げるアクティビスト投資家の能力については、大方の考えよりもう少し信頼できそうです。それは悪いことではありません」
だが、論文ではアクティビストの介入が労働者に及ぼす影響も測定しており、こちらはそれほど喜ばしい話にはならない。介入を受けた工場の賃金は、生産性の向上にもかかわらず、3年後も平均的に横ばい状態であった。企業の業績は上向いても、それが労働者の給与には反映されていなかった。
1950~1960年代、典型的な米労働者の所得は、生産性とともに上昇した。この連動は、1970~1980年代になると乖離し始める。MITの経済学者エリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーが「グレート・デカップリング」(大いなる乖離)と呼ぶ現象だ。結果として所得の格差が劇的に拡大した、と2人は述べている。
アクティビスト投資家だけを要因として格差の拡大を説明することは、その人数の少なさからしてもできない。しかし今回の論文では、マカフィーによれば生産性と賃金との間で広がる乖離の縮図が示されており、格差の拡大についても部分的に説明されている。
アクティビストは、同業他社と比較してITにそれほど投資してこなかった企業をターゲットとする。調査によれば、介入を受けた工場は3年後にはテクノロジーへの投資に関して他社に追いついていた。「この論文によれば、ヘッジファンドは資産をリストラするだけでなく、生産的なテクノロジーに投資しています」と、マカフィーは述べる。「これこそが本来ヘッジファンドに求められる役割です」
金融セクターの役割をめぐり2つの見解が対立しているのは、この点である。投資家が何の価値も生まずに労働者から搾取しているのであれば、ウォール街の活動を制限すべきと論じることはたやすい。しかし、アクティビスト・ヘッジファンドは実際に価値を生み出しているようであり、同時に、その分け前の多くを自分の懐に入れている。つまり、どちらの見解も真実なのだ。