意思決定にはバイアスがつきものであり、判断能力そのものを確実かつ持続的に高めることは難しい。しかし、ビデオゲームによる新たな訓練法を用いれば、従来の学習よりもバイアス低減の効果が格段に大きいことが示された。


 学術界では近年、人間の判断に影響するバイアス(偏り)が次々と見出され、記録されてきた。偏った判断がどのような損害を招くか、いまでは広く知られている。子供の予防接種の副作用に関する誤解から、情報機関による分析のミスまで、意思決定におけるバイアスは、ビジネス、社会政策、医療、法律、教育、そして私生活にさまざまな問題をもたらしている。

 研究者らはまた、人間のバイアスを減らして基本的な意思決定能力を高める訓練方法はないか、長い間探ってきた。しかし、ほとんど成功していない。バイアスを減らし意思決定を向上させるための従来からの訓練は、たとえば消火活動、チェス、天気予報といった特定の分野では有効だ。だがそれらのエキスパートでも、自分が学んだことを別の分野に応用することはできない。気象予報士に雨が降る確率を予測させればかなり正確だが、他の種類の確率予測においては(たとえば雑学クイズに自分が何問正解できそうか、など)、未訓練の初心者とほとんど変わらないのである。

 基本的な意思決定能力を高めるための訓練方法は、これまで成果を上げていない。そのため、バイアスを減らす手法としてはほとんどが2つの方策に集中している。

 第1の方策は、判断を左右するインセンティブを変えることだ。たとえば炭酸飲料に課税すれば、その分値段が上がり、人々に購入をためらわせるだろうと期待できる。第2の方策は、さまざまな選択肢について、情報提供の方法や選択の方法を変えることだ。ファストフードのメニューにカロリー情報を表示する、メイン料理の付け合わせをフライドポテトではなくサラダにする、などである。しかし、この種の方策は必ず効果を上げるわけではない。また効果があったとしても、それは特定の状況においてだけであり、他の状況で決定を下す際のバイアスを減らす効果はない。

 そこで私と研究協力者たちは、インタラクティブな訓練が意思決定者のバイアスを効果的に減らすのではないかと考えた。研究チームのメンバーはボストン大学のヘウォン・ユン、シティ大学ロンドンのアイリーン・スコペリッティ、ライドス(国家安全保障、医療、エンジニアリングのソリューション企業)のカール・W・シンボルスキー、クリエイティブ・テクノロジーズ(没入型バーチャル技術を扱う企業)のジェームズ・H・コリス、元カーネギーメロン大学准教授のカリム・カサームである。

 我々は4年をかけて、2種類の「まじめな」インタラクティブ・コンピューターゲームを開発した。これがプレーヤーの認知バイアスを大幅に減らせるか、確かめるためである。

 この種の1回限りの訓練が効果を上げる可能性については科学的証拠が少なく、成功の見込みは低いと思っていた。だが最近の論文でも述べたとおり、インタラクティブなゲームにはプレーヤーのバイアスをすぐに減らす効果があり、さらにこの効果は数週間持続したのである(英語論文)。我々のゲーム(どちらも約60分かかる)をプレーした参加者は、すぐにバイアスによる影響が大幅に減り(31%以上)、少なくとも2ヵ月後の時点までその減少効果が明らかに続いていた(23%以上)。

 ゲームは6種類のよく知られた認知バイアスを対象としている。これらは国家安全保障における情報分析作業との関連性から選ばれたものだが、ビジネス、政策、医療、教育といった専門分野でのあらゆる種類の決定にも影響を与える。

 以下がその6つのバイアスである。

●バイアス盲点(Bias blind spot):自分は他の人よりバイアスに影響されにくいと考える傾向。

●確証バイアス(Confirmation bias):検証中の理論を肯定する証拠だけを集め、評価する傾向。

●根本的な帰属の誤り(Fundamental attribution error):誰かの行為の原因について、その人が置かれた「状況」ではなく、その人自身の永続的な「性質」に過度に帰する傾向。

●アンカリング(Anchoring):判断を下す際に、最初に得た情報に頼りすぎる傾向。

●投影バイアス(Projection):他の人も自分と同じように考えるはずだと思い込む傾向。

●代表性バイアス(Representativeness):不確実な出来事の発生確率を評価する際に、単純(かつ往々にしてミスリーディング)な少数の規則のみに頼る傾向。