テクノロジーのトレンド分析を手掛ける米国のウェブメディアグループが、2016年に本格化する81のトレンドを発表した。本記事では、性格認識アルゴリズム、ボット、不具合、バックドア、ブロックチェーン、ドローンの法整備、量子コンピューティング、拡張知能、という特に注目すべき8つを紹介する。
デジタルやテクノロジーに関する新しい展開を見て、「なぜ自社はこれに気づかなかったのだろう」と自問したことは、1度ならずあるのではないか。
未来への最善の道を見極めるためには、新たに立ち現れつつあるトレンドを理解しなければならない。それは何か、何ではないのか、どんな原理なのか。そうしたトレンドは単に人目を引くだけの事物ではない。業界や社会や人間の行動に、持続的な変化が起こることを明示するものだ。トレンドは、現実に目を向けて解釈する手段となり、思考を整理するための便利な枠組みとなる。未知のものを探索している時には特に重要だ。流行はすぐに去るが、トレンドは未来を予測する役に立つのである。
私は次の6つの方法を用いて、来たるトレンドを特定している。1.社会や業界の周縁部に目を向け、変わった実験や研究について探る。2.それらの情報を次の6パターンに分ける。これまで見られなかった、矛盾、転換、習慣、工夫・改善、極端なもの、希少なもの。3.それらが本当にトレンドなのかを、現実的な問いによって検証する。4.それらがどの程度進展しているのかを見定める。5.シナリオをつくる。6.導き出した結論の信憑性を検証する。
私はこの予測モデルを基に、毎年末、今後数ヵ月における最も重要なテクノロジーの新トレンドを打ち出している。当社の2016年版のトレンド予測(英語サイト。81のトレンドの概説と関連組織・人物を網羅)は、あらゆる業界のマネジャーにとっての早期警報になり、またチャンスを見出す材料にもなるだろう。以下、特に注目すべき8つを挙げておきたい。
1.アルゴリズムによる性格認識(Algorithmic personality detection)
一部の保険業者は、取引相手のリスクを見極めるために、その人の雑誌やウェブコンテンツの購読記録、あるいはソーシャルメディアにアップされる写真などを調べ、性格を検証しようと試みている。また一部の金融業者も、性格認識アルゴリズムを用いて借り手の将来の金融取引を予測している(例:職業と私生活が同じような状況にある2人の借り手を比較した場合、大学時代の成績が良いほうが借金を完済する確率が高い、ということがデータからわかる)。またアルゴリズムは個人データを基に、従業員の仕事での成功度も予測する(例:転職を重ねる傾向の有無など)。
2.ボット(Bots)
タスクを自動で行うソフトウェア・アプリケーションを「ボット」と呼ぶ。2016年には多くの独創的なボットが登場し、私たちの生産性を劇的に高めたり、そばに付き添って相手をしてくれたり、他者の動向を追跡記録する手伝いをしてくれるだろう。ボットをユーザー自身で使いながらプログラミングできるところが新しい。
マイクロソフトの実験的な中国語(マンダリン)ボットであるXiaoIce(シャオアイス)は、映画『her/世界でひとつの彼女』に登場する人工知能のサマンサと似たようなものだ。XiaoIceはスマートフォンの中に住み、ユーザーと親密な会話を展開できる。前回の会話の詳細を覚えているからだ。さらに、インターネット上の人間の会話をマイニングして、ユーザー相手のチャットを合成する(訳注:マイクロソフトは同様の技術を用いて、日本のLINEユーザー向けに女子高生AIの「りんな」を開発)。
ボットの能力は会話にとどまらない。報道機関はもうすぐ、ボットを使って記事の分類とタグ付けをリアルタイムで行うようになる。また高度なボットの悪用によって、ソーシャルメディアと株価が同時に操作されるようなことも起こる。諜報の世界では、監視活動やデジタル外交(外交政策にデジタル技術を利用すること)でボットが使われるかもしれない。人事部のマネジャーは、従業員の訓練にボットを利用できる。
コミュニケーションツールの「スラック」がユーザー数を増やしているが、この分野でもボットは役に立つ。会議のアレンジやステータスの更新を自動でやり、時間の節約と生産性の向上に貢献する。
3.技術的な不具合(Glitches)
2016年には、技術的な不具合について見聞きする機会が増えるだろう。ソフトウェアにバグは付きものとはいえ、いまはオンラインの世界で非常に多くの新技術が、あっという間に現れる。それらは十分なテストを経ておらず、ユーザーとのやり取りがどうなるかを事前にうかがい知ることができない。
2013年、ナスダック市場では技術的な障害から取引が3時間ストップした。2014年には、ユナイテッド航空のシステムが不具合を起こし、5000件のフライトが2時間の運航停止となった。2015年には、ニューヨーク証券取引所でのシステム障害による取引停止があった。
衛生放送局ディッシュが提供するストリーミング放送サービスのスリングTVでは、『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』の初回放送中に映像が中断した。プロバイダーにとっては、一時的な中断でも頭の痛い問題だ。
ネットフリックスの不具合の場合、映像の中断に加えて、ディズニー映画『ノートルダムの鐘』の内容紹介文に別の作品が混ざるという奇妙なものもあった。「ビクトル・ユーゴーの小説を基にしたディズニー映画。気立ては優しいが体の不自由な鐘つき男が、偏見に立ち向かい、“個々の恐竜たちの目”を救おうとする姿を描く」(正しくは“愛する街”)。
不具合は多くの場合、ネットワークの接続不良か、必要な帯域幅の誤算によるものだ。しかし、私たちが学んでいる途中の新しい技術ほど、予期せぬ形でトラブルが生じやすい。そうした不具合は、テストと修正を施せるソフトウェアのバグとは異なる。もっと新しい形の、事前に予測するのが難しい現象だ。
私はテクノロジーを否定しているのではない。システムの監視を強化すること、そしてIT担当マネジャーと定期的に話すことをお勧めしたい。
4.バックドア(Backdoors)
バックドアは、メーカーにデバイスとOSを安全に更新させるために、開発者がファームウェアに意図的に埋め込んだコードである。メーカーはこれを利用して、ユーザー体験を損なわずにシステムにアクセスして、不具合を修正できる。だがバックドアの問題は、ユーザーのウェブカメラから個人データまであらゆるものを、秘密裏に操作するために使われる場合があることだ。
一部の米政府関係者は、法執行機関にバックドアを好き放題使えるようにする「ゴールデン・キー」の導入を提唱していくだろう。それによって影響が及ぶのは、フェイスブックやグーグルだけではない。2016年には、顧客データを保有するいかなる企業もバックドアを設けるよう求められるかもしれない。そこには銀行、権利擁護団体、旅行代理店、ホテルなど多くの業種が含まれる。
反対派はこう唱える。バックドアの設置という単純な行為によって、一般の人々が日常的なハッキング攻撃の危機にさらされる、と(未熟なハッカーでも厄介となる)。
あなたの会社が当局からバックドア設置の要請を受けたら、どうするだろうか。それに対する見解と計画はあるだろうか。