5.ブロックチェーン(Blockchain)
ブロックチェーンは、特定の誰かが取引をコントロールするのではなく、分散的に合意が形成されるシステムだと思えばよい。これまではビットコインの基盤技術として報じられることが多かったが、ビットコインはブロックチェーンのキラーアプリケーションにはならないだろうというのが大方の総意である。
スタートアップ企業ブロックストリームの暗号技術チームは先頃、自社で開発した「サイドチェーン」というシステムを用いた最初の試作品をリリースした。サイドチェーンは、独自のコードを持つ独立した台帳として機能し、認証をより容易にする。ブロックチェーンは、同社が今後展開するサイドチェーンの取り組みによって、署名と認証を要するあらゆる取引に使えるユニバーサルなプラットフォームになりうる。それはすべての業界に破壊的変化をもたらすことになる。
人々はブロックチェーンによって、「信用を必要としない決済」、つまり買い手と売り手の間に仲介者が必要ないシステムに参加できる。金融に限らず他の分野でも、ほとんどの取引ですべての仲介者が不要となる可能性があるのだ。
「21 ビットコイン・コンピュータ」という製品がある。最低限の機能を備えた小型のLinux系ハードウェアで、OSにはビットコインのプロトコルが搭載されている。このコンピュータで開発された製品やサービス(ゲームや音楽、その他あらゆるデジタルコンテンツ)は、その構成要素にビットコインが組み込まれる。機器とビットコインが極めてシームレスに融合されていて、ブロックチェーンを使っていることがわからないほどだ。決済サービス企業をはじめとする多くの仲介者が不要となる可能性が、ここにも見える。
6.ドローンの飛行レーン(Drone lanes)
2015年、カリフォルニアで森林火災が勢いを増し高速道路へと燃え広がり、多数の車へと引火した。消防隊がヘリコプターによる消火を始めようとした時、2機のドローンによって(故意ではないが)動きを妨害された。米連邦航空局(FAA)は現在のところ、空港周辺の上空でドローンを飛ばすのを禁止している。しかし飛行禁止区域はあっても、「飛行禁止状況」は定まっていない。
2016年は、趣味用および商用のドローンの飛行は規制されるべきか、カリフォルニアからワシントンDCまで随所で盛んに論じられるだろう。これは技術者、研究者、ドローンメーカー、企業、航空業界の間で難しい議論へと発展する。無人機の未来について、それぞれに経済的な思惑があるからだ。私の予想では、趣味用ドローンが許される空域は200フィート(約61メートル)以下、商用ドローンの飛行空域は200~400フィートとされるのではないか。
7.量子コンピューティング(Quantum computing)
量子コンピュータとは簡単に言えば、情報を1か0かで処理する従来のコンピュータでは手に負えない問題を解決できるものだ。量子の世界では、1と0というビットを個別にではなく同時に取ることで(量子ビット。キュービットとも言う)、並列的な計算が可能になる。たとえば2つの量子ビットを用いると、00、01、10、11という4つの値を同時に表現できる。
量子コンピュータは既存のあらゆるコンピュータよりも強力だが、新しいことをするための特別なアルゴリズムを必要とする。たとえば、マサチューセッツ工科大学のピーター・ショアが開発した、素因数分解を短時間で可能にする「ショアのアルゴリズム」などだ。米国家安全保障局の予測では、量子コンピュータが広く普及すれば、現在使われている暗号技術は完全に廃れるという。
科学者は、量子コンピューティングを数十年にわたり研究してきた。これまで難しかったのは、「量子機械が実際に量子計算を行っていること」の証明であった。なぜなら量子システムにおいては、転送中の情報を観測する行為そのものが、そのデータに変化を及ぼすからだ。
2016年にはまだ量子コンピュータを買うことはできないが、トレンドとしては注視に値する。IBMで実験的量子コンピューティングに取り組む研究チームは、エラーの検出といった難しい問題を解明し始めている。量子コンピュータ企業のDウェーブ・システムズは最近、1000個を超える量子ビットの搭載に初めて成功したと発表した。これがもし本当なら、地球上で最も強力なコンピュータである。IBM、マイクロソフト、ヒューレット・パッカード、グーグル、そしてDウェーブはいま、この技術を発展させ商用化する方法を見出そうとしている。
8.拡張知能(Augmented knowledge)
この用語が広く定着しているわけではない。しかし私たちは、インターネットを介して情報を他者の脳に直接送れる「デジタル・テレパシー」の時代に生きている。南カリフォルニア大学の科学者らは、記憶機能を修復・強化する認知神経補綴(cognitive neural prosthesis)に取り組んでいる(海馬にマイクロチップを埋め込み、記憶機能を持たせる)。この研究には、脳卒中や外傷性脳損傷を患った人が認知能力と運動機能を取り戻せるよう助けるという、現実的かつ利他的な目的がある。彼らに必要なのは再学習ではなく、記憶を再読み込みすることなのだ。
この研究は、人がいつの日かコンピュータによって知能を拡張できる可能性を示唆している。ロボットスーツにより身体的な強度を高めるのと同じだ。カリスマシェフのトーマス・ケラーのブリオッシュ(菓子パン)を、ただ(レシピ通りに)焼くだけでなく、彼の特別な生地練りの技術を自分の脳にインストールできるということだ。あるいは契約の話し合いに、オルブライト元米国務長官の交渉術をインストールして臨めるかもしれない。
ここから次の問いが生じる。ずっと先の未来では、「学ぶ」ということは何を意味するのだろうか。知識の「習得」と「取得」は、どう違ってくるのだろうか。
HBR.ORG原文:8 Tech Trends to Watch in 2016 December 08, 2015
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エイミー・ウェブ(Amy Webb)
デジタル戦略のコンサルティング会社、ウェブメディア・グループの創設者兼CEO。世界中の企業・組織に、近い将来訪れるテクノロジーとデジタルメディアの新トレンドをアドバイスする。ハーバード大学ニーマン・ジャーナリズム財団の客員研究員も務める。