高齢者のICTリテラシー向上がカギ

――ICTによる超高齢社会の課題解決を妨げているものは何でしょうか。

 一つは、若者に比べて高齢者がICT利活用を好まないことでしょう。高齢者が成人に占める割合は約4割。高齢者が特定ICTにノーと言えば、成人の半数近くが拒否したことになります。町にネットがあふれているのに半数の人は興味がない。現在は、こんな状況にあるわけです。

 二つ目は、前述したように技術者の社会学的な発想の弱さでしょう。技術者たちは、高齢化が進むなかで、どう情報革命を社会と融合させていけばいいのかというサービス・イノベーションの発想がないままに、高機能や高品質を追求して商品開発をしてきました。結果、ICTに慣れ親しんでこなかった高齢者にとっては使い勝手が悪いものができあがり、デジタル格差として取り残されてしまったわけです。

 しかし、そうした問題も少しずつ解決に向かっています。現在は、高齢者の6割以上、統計によっては7割以上がネットを使うようになりました。

――ネットの普及率が上がった要因はどこにあったのですか。

 複数が考えられますが、一つはネットスーパーをはじめとしたオンラインの買い物です。現在は、主要スーパーはほとんどの商品をネットでも販売しています。早い時間帯に注文を入れれば当日届けてくれます。“必要は発明の母”と言いますが、悪天候で遠くまで出かけたり、重たい荷物を運んだり、車の運転ができなくなるなど、買い物が難しくなった高齢者がこれに飛びつきました。その結果、ネットが使える高齢者の比率は飛躍的に上昇したわけです。

 また、“団塊の世代”をはじめ、現役時代に仕事でパソコンを使っていた世代が高齢者の仲間入りをしてきました。それもネットが使える高齢者比率の増加に拍車をかけています。今後はネットが使えるデジタル世代高齢者の比率は増える一方です。

――高齢者がネットを使うようになると、どういうことが起こるのでしょうか。

 いろいろありますが、電子政府や電子選挙が本格化することが期待できます。最近までは電子政府も電子選挙も名前ばかりで、その多くは役所や投票所に出向いていかなければできませんでした。たとえば税務署の場合は、税務署に端末が置いてあって、そこでオンラインの手続きをするといった具合です。そこまで行くなら税務署に書類を提出したほうがはるかに楽です。また、ある自治体で実施した電子選挙は投票所にいってボタンを押すといったレベルでした。集計が早いという以外のメリットは感じられない代物です。いつでも、どこでも気軽に利用できる“ネチズン”社会なら投票率も9割台に上昇するかもしれません。

 ネットを使える人口が増えることによって、相互利活用のシナジー効果が生まれ、ネットに切り替えてほしいというニーズが高まるはずです。それに伴って、各種手続きは本格的にネットに切り替えることが可能になります。確定申告をはじめ自宅でできる電子申請手続きが増え、セキュリティと個人認証が確固たるものになれば、いずれ自宅での電子投票も可能になるでしょう。