研究開発にも高齢者の意見が反映される社会に

――電子政府や電子選挙の本質的なメリットはどこにあるのでしょうか。

 電子政府になれば行政情報の共有化が進み縦割りが解消されます。マイナンバーもそのための布石の一つといえるでしょう。電子選挙が実現すれば、ボタン一つで選挙に参加できるようになります。現在の投票率は6割以下。地方自治体の選挙では3割のケースもあります。1割5分くらいの票を取れば首長に当選できてしまうわけです。民意が反映されているとはとても思えません。

 それに対して、電子選挙が普及していけば国民の8~9割が投票するようになるはずです。ほとんどの人が選挙に参加する理想的なデモクラシーが始まるわけです。そのうちの約4割が高齢者。彼らの意見も選挙に色濃く反映されるでしょう。それを私は国連会議で「シルバーデモクラシー」として講演してきました。高齢者の意志が反映され、ICTの利活用はずいぶん変わると思います。

――変化が期待される領域はどんなところでしょうか。

 最も解決が期待されるのは、在宅勤務(テレワーク)などダイバーシティな雇用形態です。現在は65歳から70歳の5年間でほとんどの人が仕事を辞めます。そのうち8割はまだ働きたいと答えていますが、実際に望む仕事につける人は2割程度にすぎません。経済的な不安に加えて、生きがいも得られず、高齢者向けアンケートで「幸福」だと答えた人はひと握りでした。

 雇用を拡大するカギはICTにあるといわれてきましたが、残念ながらICTの普及は、効率化、生産性、コスト削減に有効ですが、現段階では世界的に雇用を縮小する方向に働いています。しかし、高齢者がICTと融合したさまざまなサービスを利用すれば、2020年には約23兆円の経済効果が国内で見込まれています。また、ICTはロボットをはじめ高齢者の肉体的な脆弱性を補う効果も期待できます。ICTによってどのように雇用を拡大できるのかは、世界中で研究段階ですが、試算で2050年に3000兆円にのぼる高齢者向けサービス市場の拡大のあたりにヒントがあるかもしれません。

 また、ICT化が進むことで、NGOネットワークなど草の根的な運動も盛んになり、研究開発にも高齢者の意見が反映されるようになるでしょう。テクノロジー・イノベーションからのサービス・イノベーション(マーケティング重視)、プロバイダー中心主義からユーザーオリエンテッドへの転換です。そうなれば、「部厚い取扱説明書を読まなければ使えない」「教室に通うなどじっくり勉強しなければなかなかマスターできない」といったユーザーの利便性を無視したような商品はなくなるでしょう。

 災害情報に関しても、たとえば単に病院の位置を知らせるだけの情報から、どの病院が被災をまぬがれ治療可能かといった、具体的なきめ細かい情報を配信するアクションオリエンテッドなシステムに変わっていくでしょう。災害の時に被害は高齢者に集中しますが、個々の高齢者のリアルタイムの状況に合わせたAI(人工知能)加工情報が送れるようになれば、安心安全は守られます。

 こうした発想が根づいてきたときに、すべての人に役立つエイジフレンドリーな技術、つまり国際的標準がとれるような商品が開発できるようになると思います。ICTと超高齢社会の融合、それに世界標準に結びつく商品開発ができるようになった時、最先端IT立国を目指す「日本モデル」は真価を発揮するでしょう。

(構成/竹内三保子 撮影/宇佐見利明)