従業員への待遇をよくすれば、イノベーションに寄与するのか。ここ数年の諸研究に示される知見を紹介しながら、従業員のリスクテイクと長期的コミットメントを促す待遇こそがカギであることを示す。
グーグルやフェイスブックのような会社は、なぜ従業員にかくも多くの特典を提供しているのか。その理由を示す新たな研究がある。従業員の待遇がよい会社ほど、イノベーション力が高いのだという。
オーストラリアのモナシュ大学とラトローブ大学の研究者らは、従業員への待遇を示す一般的な尺度と、特許に関するデータとを対比した(英語論文)。その結果、待遇度のスコアが高い会社ほど、より多くの特許を取得し、しかもその被引用回数も多いということがわかった。それだけでなく、特許の妥当性、つまり会社の持つ専門性との関連度も高かったのだ。
従業員への待遇(安全、雇用者と従業員の関係、多様性、コーポレート・ガバナンスなど)とイノベーションとの相関性は、企業規模やR&D投資額を含む多数の要因を調整した後でも依然として見られた。
従業員の恩恵とイノベーションとの関連に着目した研究報告は、上記が初めてではない。2015年に『ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・エコノミクス』誌で発表された論文によれば、幹部でない従業員にストックオプションを提供している会社は、イノベーション力がより高く、そこには因果関係があるという(英語論文)。
2010年の別の論文では、米国と諸外国において労働法がイノベーションに与える影響に着目している。従業員の解雇を困難にする法律が施行されている国ほど、イノベーションが多いことが明らかになっている(英語論文)。
とはいえ、従業員の恩恵となることすべてが、必ずしもイノベーションを向上させるとは限らない。『マネジメント・サイエンス』誌で近日発表される論文では、労働組合の結成がイノベーションに及ぼす影響について調査している(英語論文)。調査対象となったのは、1980年から2005年にかけて、組合結成を問う投票で賛成が反対を僅差で上回った米国企業だ。僅差ということは、投票はどちらの結果にも転ぶ可能性があった。つまり組合化の成否がランダムであったため、実験として見ることができるわけだ。
研究からは、労働組合の結成によって、特許の数と質で示されるイノベーションが有意に低下したことが明らかになった(なお、これ以前の別の研究では、労働組合の結成がイノベーションに及ぼす影響をR&D投資額の尺度で調査したものがあるが、結果はもっと複雑であった〈英語論文〉)。