なぜ、従業員が受ける恩恵が会社のイノベーション力を高めることもあれば、そうでない場合もあるのか。そのカギは「長期的なインセンティブ」であることが、経済学の理論から示唆されている(英語論文)。従業員は、解雇を恐れてであっても、昇進を目指してであっても、短期的に成果を上げるようプレッシャーを感じている場合には、リスクの高いイノベーションを追求する可能性は低いようだ。
一方、従業員がよりイノベーションに積極的になるのは、短期的な失敗が許され、見返りすら与えられる環境にある時だ。加えて、会社の長期的な業績に対して利害があることも要因となる。ストックオプションはその典型だ。従業員のインセンティブと、会社の長期的な運命が結びついている。
その他の恩恵も、少なくとも間接的には、長期的な視野を持つよう促すかもしれない。つまり、満足度の高い従業員ほど会社に長く留まり、ひいては会社の長期的な成功への関心・関与を強めるということだ。労働法も同様の効果を持つと思われる。
では、労働組合はなぜイノベーションに寄与しないのだろうか。労働組合に関する先の論文の共著者、南フロリダ大学教授ダニエル・ブラッドリーは、その答えは「忠誠心」に関係があると指摘する。
2009年の別の研究を引き合いに出し、私にこう語った。「労働組合に加入している従業員は、そうでない人と比較して、企業の401k(確定拠出年金)への拠出額が著しく低いのです」。論文はこの事実を、雇用主に対する忠誠心が低い証拠だと解釈している。「組合化は従業員の忠誠心を阻むのです。会社に忠誠心を持ちすぎると、団体交渉の邪魔になりますから」
冒頭で紹介した論文の共著者、ラトローブ大学教授のエドワード・ポドルスキはこう述べる。「革新的なイノベーションを目指し、リスクを積極的に取るよう従業員をいかに動機づけられるか。企業はつまるところ、その方法を見出す必要があります」。私が労働組合の結成に関する研究結果をどう思うか尋ねると、彼は次のように応じた。「労働条件の改善すべてが、イノベーションの成果向上にそのまま結び付くわけではありません」。だが彼の研究に示されるように、すべてではなくとも多くの改善がイノベーションの向上につながっている。
従業員への待遇をよくすることは、会社のイノベーション力を高める条件の1つではあるが、それだけでは十分ではない。会社の成功に対し、従業員が長期的に関与する必要もあるのだ。
HBR.ORG原文:When Treating Workers Well Leads to More Innovation November 03, 2015
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ウォルター・フリック(Walter Frick)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・ アソシエート・エディター。