優れたチームリーダーとなるうえで、資質(リーダーらしさ)と専門知識(コンピタンス)のどちらがより重要なのだろうか。ある研究によれば、専門知識の持ち主よりも「背の高い人、声の大きい人、自信がある人」などがしばしばリーダーとして選ばれ、チームのパフォーマンスが阻害されるという。


「リーダーシップの資質に関する議論」と、「リーダーに実際に求められるもの」は、時に一致しない場合がある。前者ではしばしば権威、影響力、EQ(心の知能指数)といった言葉が聞かれる。一方、実際にチームおよび関わる集団を率いる人に、ほぼ間違いなく求められるのは、特定の仕事を遂行するための能力と深い知識(コンピタンス)だ。

 チームのパフォーマンスを高めるうえで、リーダーのどの要件が最も重要なのか。スタンフォード大学とエラスムス大学の研究者らは、『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』誌掲載の論文でこの点について解明を試みている。そして権力構造の違いによって、チームの成功がどう左右されるのかについても検証している(英語論文)。

 私は執筆者の1人であるスタンフォード大学経営大学院のリンドレッド・グリアに話を聞いた。以下にインタビューを編集してお届けする。なお論文の共同執筆者は、ともにエラスムス大学ロッテルダム経営大学院のムラート・タラキ(筆頭執筆者)とパトリック・グローネンである。

HBR:今回の研究の目的を教えてください。

グリア(以下略):第1に、チームのヒエラルキーが強いほうが望ましい場合と、チームメンバーに自己管理をさせるほうがよい場合について理解したいと思いました。昨今、管理職を置かない「ホラクラシー」などの自己管理型組織が話題になっていますが、学術研究の観点から言えば、その真価はほとんど解明されていません。

 第2に、人々が「優れたリーダーシップ」というものをどれほど適切に認識しているのかを探りたいと考えました。我々は学生に「パワーポーズ」、つまり権威があるように見えるしぐさを教え、実際に権威を身に付けるまでその「振り」を続ける方法なども指導しています。それらは優れた研究に基づいており、実際に有益です。

 しかし、あるリーダーが優れた資質を本当に持っているかどうかについては、人々はうまく判断できないのかもしれません。コーネル大学のデイビッド・ダニングとジャスティン・クルーガーは、最も無能な人が自身の能力を過信する結果、しばしばリーダーの地位に就いてしまう、という現象を見事に示しています(ダニング=クルーガー効果)。

――最初の実験では、3種類のチームのパフォーマンスをシミュレーションされましたね。各チームはそれぞれ、複雑な問題に対する最善のソリューションを協力して探しました。結果はどうでしたか。

 1つ目のチームでは、権力とコンピタンスが一致していました。つまり、与えたタスクについて最も知識のある人物に、チームを率いてもらうのです。このチームは最も優れた成果を上げました。

 2つ目のチームは、リーダーを設けず権力を分担しました。つまり相対的に非ヒエラルキー型です。彼らの成果は1つ目のチームには及びませんでした。しかし3つ目のチーム、つまり「ヒエラルキー型で、リーダーがランダムに選ばれた」チームよりは優秀でした。

 そしてフィールド調査でも、上記と同様の結果が得られました。オランダの某上場企業で、脱税や不正行為を見つけ出す財務監査のチーム49組を調査しました。すると脱税について深い専門知識を持たないリーダーは、チームのパフォーマンスを下げていました。

――研究の最後に行った実験では、リーダーがどのように選ばれるかについて深く検証されていますね。結果を教えてください。

 実は、これはスタンフォードの学生を相手に毎年実施している、広く知られた課題です。飛行機が墜落してチームが砂漠に取り残されたと想定し、生き残るために使えるアイテムの一覧を配布します。チームメンバーは最初に、救助されるまでそのまま待つかどうかを決断します。次に各アイテムの重要度をランク付けします。それからチームが出した答えを、自然でのサバイバルの専門家による答えと比較します。

 この課題を我々の研究目的に照らして実施するに当たり、あるチームには、リーダー不在の状態で協力し合って解決してもらいました。別のチームには、メンバー間でリーダーを選ぶよう要請しました。その人物は議論を取り仕切り、意見に相違がある場合は最終決断を下し、出来上がったランキングを提出する役割を担います。

 課題に10分間取り組んだ後、休憩を取っている時に、リーダーがいるチームには次のことを全員に開示しました。メンバー個々人がどの程度うまくやっているか。そしてチーム全体としてどの程度うまくやっているか、という評価です。課題を再開後、アイテムのランク付けを再検討してもらいますが、そこで新しいリーダーを選べるようにもしました。

 その結果には大いに驚かされました。というのも、最も専門知識のある人物をリーダーに選んだメンバーの割合は、わずか55%だったのです。課題を再開する時にはすでに、最も専門知識があるのは誰かが明らかになっていました。にもかかわらず、45%がその人物を選ばなかったわけです。その代わりに、たとえば背の高い人、声の大きい人、または自信のある人などがリーダーに選ばれました。

 この実験でもやはり、自己管理型チームのほうが、不適切なリーダーを選んだチームよりも優れた成果を上げました。ただし最も成績が良かったのは、最もコンピタンス(サバイバルに関する専門知識)のある人物がリーダーを務めたチームでした。

 我々はこの課題を長年にわたって実施してきましたが、いつも同様の結果が出ています。つまり、誰にリーダーの役を担わせるべきかについて、学生たちが不適切な選択をする様子を、毎年のように目の当たりにしてきました。非常に説得力のある結果です。