わかりやすい答えやツールは存在しない
――この本のなかでは、それぞれの相談に対して「明快な解決策」が示されていません。
この本の目的は、その特定の相談者に対して有効な回答をすることではないんです。広く読者に向けて、僕自身の仕事論をお伝えすることに目的があります。
仕事の迷いや悩みが出てきた時、最終的には自分で解決しなければならない。厳しいことを言うようですが、相談してもしょうがないと思いますね、僕は。「好きなようにしてください」っていうのは、言い方を変えれば「本人以外の誰も答えはわからない」っていうことなんです。
いまその人が直面している具体的な問題に対してどうすればいいのか、一つ一つ具体的に答えても、仕事と仕事生活は長い時間軸を持った話ですから仕事をする中でまた新たな問題は出てきます。キャリアというのはそうしたことの明け暮れなんです。個別具体的な回答やアドバイスよりももう少し一般的な、普遍的な、抽象度が高い視点や論点の方が、悩みや迷いを解決する上で意味があると思っています。この本では「キャリアは計画出来ない」「最適な環境は存在しない」「趣味と仕事は違う」といった、僕なりの仕事に対する構えについて、わりとしつこく語っています。
たとえば、自分の問題を解決するうえで、松下幸之助の『道をひらく』を読んだりするのは多くの人にとって意味があることですね。だから今でも多くの人に読み継がれている。個別具体的な相談に対してソリューションを与えているわけではないけれど、松下幸之助さんの超一流の仕事への構えを知ると、「あ、そうか」と納得する部分や、自分の問題に引き下ろして「やっぱり自分はここでこうしなきゃダメだな」とか、自分なりに解決策を得ていけるんですよね。
僕の本もね、そういうふうに使ってもらいたいなと。自分を松下幸之助さんの横に並べるのはちょっとアレですけど(笑)。