人間の本性を考えて欲しい

――楠木先生の仕事論をまとめて、若手の方に読んでもらいたい1冊になったと。

 そうですね。べつに悩みがある人じゃなくても読んで欲しい。20代から40代ぐらいの人に仕事論として参照してもらいたいなと思っているんです。同意していただくのもいいんですけど、「あ、こういうふうな考え方なのか、この人は。でも自分は違うな」っていうことで、僕の考えと比較することで、自分の仕事に対する構えみたいなものに気づいたりするのもアリでしょう。

 もう1つは、悩みを持っている人たちに直面している、人事部の人、マネジャー層などにも1つの仕事論として参照してもらいたいなと思っているんです。僕は本の中で「本性主義」と言っていますが、「人間ってこういうもんだよね」っていう、人間の本性とか本質について、思うところがあります。けれども、今の人事施策には人間の本性に対する理解が欠けている面がある。

「インセンティブプランはこういうふうにやるんだ」とか、「女性が働きやすい職場っていうのはこうやって設計するんだ」みたいに、機械的に制度設計をしようとしがちな気がします。

――女性活用やダイバーシティなどの言葉が、今は溢れていますね。

 それはそれでいいんです。けれども制度を設計する際には、そもそも人間の本性に対する洞察などが必要だと思うんですよね。人をマネジメントする立場の人、人を動かす立場の人たちは、本来は人間っていうものに対していちばん関心を持って、人間の本質の部分を考えるところから始まらなければいけないと、僕は思っています。

 例えば、ファーストリテイリングの柳井さんは社員に向かって「あなたは商売の面白さがまだ分かってない…」とかよく仰っるんです。配属がどうとか、職種がどうだとか、インセンティブがどうだとか…もちろんそれもあるでしょう。けれど、それを100個繰り出すよりも、商売の面白さを分かってもらう方が、よっぽど人は動くと思うんです。そういったことを考える際の、参照点にしてもらえるといいなと思いますね。