量の人工知能、質の販売員

店頭に設置されているiPad。自身の「好き」を入力することで、自分の好みに合ったコーディネートを、スタイリストのセンスを学習した人工知能が提案する。
――今回のサービス開始後、人工知能を活用することで、接客力は高まりましたか。
20代30代のデジタルに慣れ親しんでいると思われる販売員が、人工知能を使って接客をする場面が多かったのですが、意外と販売員自身に抵抗があるなという印象を受けました。提案量の部分は人工知能に頼っても、クオリティの部分は私たちに任せておけというような自負があるのかなと感じました。
――量というのは商品数や提案できるスタイリングの数ということでしょうか。
そうです。量の提案は人工知能に及びませんが、お客様が「素敵」と思ったり「かわいい」と思った時のお手伝いに関しては、まだまだ自分たち人間の感性のほうが上回っているのではないかという自負を感じたのです。
「自分たちの感性の方が上回っているのでは?」という感情を抱くのは、実は人工知能に対する違和感の積み重ねが原因だと思っています。今回のアプリが搭載されたiPadを、販売員とお客様が一緒に使いながら見ています。すると、お客様がちょっとした違和感を覚えることがある。好みに基づいた提案がなされているはずなのですが、お客様が「ちょっとこのアイテムは好きじゃないかもしれない」と、画面を見ながら思う場面があるのです。好みに合わない提案が出てくると、不信感を覚えるようです。
――人工知能に対する期待が高いのですね。
人気スタイリストのセンスを学習した人工知能と聞くと、未知のもの、すごいものが提案されるという期待が増します。そこに対して「あなたが薦めるのとだいたい変わらないわね」と思うものが出てくると、不信感を覚えるようです。
――人工知能の提案は、意外とお客様のニーズを掴んでいないのではないか、という疑問を持つと。
そうなんです。そして、たとえお客様が違和感を覚えても、その部分のフォローとは、現時点では人工知能には難しい領域です。なんとなくお客様が違和感を持たれた時に、フォローするのは圧倒的に販売員の方に力がある。
そういった意味でも、提案量はデジタルが担い、感情を交わす、会話を交わすというのはまだまだ販売員に頼る領域なのだと思います。
ただし、販売員が万能という訳ではなく、お客様が販売員の提案に対して「この人の感覚は、もしかしたら私と違うかもしれない」という違和感を持つこともあり、販売員に対する信頼感が低下する場面はあります。そういった意味では人工知能も販売員も共通の弱点を持っているとも言えるかもしれません。
買い物という体験は、あくまでもお客様ご自身が主役です。われわれ主導ではなくお客様主導で、いかにそれに寄り添った提案できるかということが課題です。