経営者は株主の代理人

 企業が代理人問題を乗り越えて、企業価値を最大化するための仕組みがガバナンスのコアである。会社内部について見れば、経営者と従業員の間の報酬と業績監視のシステムがうまく働くように、各企業は人事制度や内部監査などのしくみを工夫している。

 しかし、ここでいう「本人」、すなわち株主の存在が意識されるようになったのは、日本では極めて最近だ。日本の経営者は「株主=本人、経営者=代理人」という枠組みで株主を捉えている人は少ないかもしれない。どちらかというと、自分が「本人」で、資本に対してリターンを払っている、という意識かもしれない。株主と経営者の間の代理人問題の解決には、これまでとは違う考え方や仕組みが必要になってくる。

 本人(株主)と代理人(経営者)の間で情報格差をなくす、すなわち経営者が「説明責任」を果たすには企業の情報開示だけでは十分でない。取締役会で実質を議論し、衆智を尽くして決定することが求められる。ここで取締役会の構成員が問題になる。客観性を保つために、株主の代表としての社外取締役が必要だ。

 そもそも、いずれにせよ、企業は、株主の資本、経営者のリーダーシップ、従業員の働きのどれが欠けてもうまくいかない。いかにそれらを最大限に機能させて、企業価値の持続的最大化を図るかが本質だ。

取締役会による実質的な議論

 取締役会の議論の質は、執行側が明確な論点整理をすることで大きく変わってくる。取締役会の議題選定や運営がきわめて大事である。社内独自の語彙や長年の文章スタイルの慣習、さらには根強い伝統的価値観などがあると、社外役員には意味不明な時もある。つまり、会社外でも意味が通じず、対外的に説明できないことになる。客観性をできるだけ保つ努力が必要だ。

 客観性を保つためには、いわゆる「あ・うん」の中身を点検する。その時の基準は常に、企業価値にプラスかどうかということだろう。テクニカルな情報が羅列された分厚い資料で議論しようとするのではなく、正確な要約と明確な論点整理が大事であり、それでこそ一定時間内の会議による意思決定が可能になる。