代理人問題が起きる理由

 企業統治の問題を理論的に考えると、「代理人問題(プリンシパル・エージェント問題)」と「情報の非対称性」がキーワードになる。

 代理人問題とは本人が代理人に仕事を委任するときに、代理人が本人の利益を犠牲にして代理人自身の利益を優先することがある問題だ。本人は、代理人にインセンティブ(報酬)を与え、その仕事ぶりを監視することで対処しようとする。しかし、代理人にしかわからない情報がある場合、つまり本人と代理人で「情報の非対称性」がある場合には監視は必ずしもうまくいかない。

 企業統治においては、企業の所有者である株主が本人であり、経営者を代理人として選び、報酬を与えて業務を委託していると考える。その場合、経営者(代理人)は必ずしも株主(本人)の利益を最大化するように行動していないかもしれない。例えば経営者が収益拡大に必要となる事業上のリスクをとらず、自分の在任中は安穏な生活を享受しようとする場合だ。日本企業の株主リターンが高くないのは、この結果だと考えている投資家も存在する。株主はこれにどのように対処すべきか。こうした文脈で、CEOをリーダーとする経営者の選任や、取締役会の果たすべき機能が問われている。

 会社の内部だけをとっても代理人問題は存在する。この場合は経営者が本人で、従業員が代理人として捉えられる。本人(経営者)は、従業員という代理人に報酬を与えて業務を委託し、業績を監視する。報酬は労働に対する給与であり、業績監視は人事評価によって行われる。しかし、代理人(従業員)は業績をあげず代理人の利益を優先してしまうかもしれない。代理人の利益を優先する、ということには、業務のサボタージュや懸命に働かないことなどいろいろなパターンがありえる。