●内省を誘発する問いを自分に投げかけ、反応を書く
以下は私の好きな自問の例である。
・今の自分はどんな気分か?
・自分のリーダーシップについてどう思うか?
・以下について、いま最も注意を向けるべきことは何か?
自分のリーダーシップについて
自分の人生について
世界について
・この24時間に知った、最も奇抜な(または楽しい/新しい)アイデアは何か? そのアイデアのどこが気に入っているのか?
・今週に知った、他業界/他国における一番ワクワクさせられた活動は何か?
・今週、自分の(あるいは部下の)幸せに最も貢献したことは何か? 人生でもっと幸せを得るにはどうすればいいか?
●芸術作品を見てイマジネーションを刺激する
芸術は、日々の混乱と慌ただしさを忘れるひとときに、リーダーをいざなってくれる。絵画やその他の芸術を鑑賞することで、新しい見方を試してみる機会が生まれる。一枚の絵を本気で集中して観察すれば、何が見えてくるだろう? 目の前の絵と、いまの自分の状況とを関連づけてみれば、どんな新しい風景が現れるだろうか?
これは強引な理屈に思えるかもしれない。しかし、絵画作品と現実世界の問題という意外な組み合わせによって、これまで見えなかったダイナミクスに気づき、予期せぬ新しい洞察に至ることは少なくない。
たとえばイェール大学で行われたある研究では、若い医師たちが美術史の講座を受けると、視覚的な診断力が有意に向上することが示された(英語論文)。その理由は、芸術作品を見ることで、鑑賞者は(芸術家であれ、医師あるいはCEOであれ)複雑な対象から意味を見出す力を高めるからだ。つまり芸術鑑賞は誰にとっても、物事をより正確に、創造的に理解するうえで役立つのである。同時に、ある種の謙虚さも身につく。いまの自分の解釈は、他にもありうる多くの世界観の1つにすぎないと気づくからだ。
芸術を内省のきっかけとするには、次の手順に従えばよい。最近私が展覧会に出した以下の絵を使って、練習してみていただきたい。

(Courtesy of the artist, Nancy J. Adler)
1.1点の絵画(または他の芸術作品)を選ぶ
あなたの注意を引いた作品を、じっと見つめてみよう。その作品を選ぶ理由は何でもよい。好きだから、嫌な感じがするから、よくわからないが何となく、でもかまわない。
2.作品を少なくとも3分間、中断せずにじっと観察する
必ず時間を測ろう。3分は非常に長く感じるかもしれない。
3.「見る力」を強化する
絵について説明してみよう。まず何が見えたのか。観察するうちに、見え方がどう変わってきたのか。絵を選んだ時には気づかなかったが、3分経って見えてきたことは何だろうか。
4.絵と現実をつなぐ問いを自問する
この絵によってもたらされた、新しい観点はあるだろうか。例:現在の経済(または自分の会社やチーム)の状況と、作品との共通点は? 絵に見られる複雑性は、自社が最近行った3大陸にまたがる合併の隠れた複雑性と、どこか通じるものはないか? この絵は、市場経済化が進む地域で自社が見逃しているビジネスチャンスを示していないか? 浮かんでくる気づきがもたらす驚きに、身をまかせよう。
●目的・意義について考える
好機はいくらでも見つかっても意義はなかなか見出せない、というリーダーがあまりに多い。自分にとって最も意味あること、そして社会のため、地球のためにいちばん重要だと信じることは何か。そこに立ち返る問いを自分にぶつければ、目的意識を深めることができる。たとえば、自分の日々の仕事は何を意味するのか、生涯の仕事は何か、といった自問だ。
また、世界のリーダーが残したインスピレーションに富む言葉や、伝統的な知恵について日記で考えを巡らせることは、浅慮や視野狭窄を防ぐ役に立つ。
私が好きな言葉を2つ挙げておこう。
「耳を傾けよ。自分の内なる声に忠実に耳を傾けるほど、外からの音も恐れずによりいっそう聞こえるようになる」
――ダグ・ハマーショルド。エコノミスト、国連事務総長(1953-1961年)
「私たちにはいまの時代に対する責任がある。過去の人々がそうしてきたように、歴史に囚われるのではなく、歴史を築いていく責任だ」
――マデレーン・オルブライト。米国務長官(1997~2001年)
こうした洞察に富む言葉は、リーダーシップとは成功だけでなく、意義深さが必要なものであることを改めて教えてくれる。戦略も戦術も、最終的に果たすべき意義がなければ無意味だということを。
どんな問いで始めるにせよ、内省の旅では車掌ではなく乗客として、めぐる思いに身を委ねよう。日記をつける習慣によって、勇気が得られる。世界を違った角度から眺め、違った角度から理解し、必要とされる新たな方法でリーダーシップを発揮する勇気である。
HBR.ORG原文:Want to Be an Outstanding Leader? Keep a Journal. January 13, 2016
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ナンシー・J・アドラー(Nancy J. Adler)
マギル大学S・ブロンフマン記念経営学講座教授。グローバル・リーダーシップ、異文化マネジメント、そして芸術を活用したリーダーシップ慣行について、世界を舞台に研究とコンサルティングを行う。これまで125編を超える論文、3本の映画プロデュース、10冊の著書および多数の編書がある。ビジュアルアーティストとしても活動し、バンフ・センター(芸術学校)の招聘アーティストも務める。