スポーツの教訓をビジネスに活かす話は数多い。昨年のラグビー・ワールドカップで大躍進を果たした日本代表。その指揮官であるエディー・ジョーンズから、われわれは何を学ぶことができるのか。

 

高い目標設定に隠された用意周到さ

 昨年のラグビー・ワールドカップでの日本代表の躍進は、いまなお鮮明な記憶として残っています。以来、遠ざかっていたラグビー観戦が、最近復活しました。そこであらためて、フェアは精神を貫くラグビーの魅力を再確認しています。

 巷でも、ラグビー情報が溢れ、多くの本も刊行されていますが、「最近ラグビー本を20冊読んで、一番よかった」という知人のススメで、『エディー・ウォーズ』という本を読みました。これが鳥肌の立つような読書経験でした。

 本書は、日本代表のヘッドコーチである、エディー・ジョーンズ氏の代表就任からW杯までの軌跡を本人はもちろんのこと、選手、スタッフなど多くの関係者への取材をもとに書かれたノンフィクションです。

 合言葉は、「歴史を変える」。2019年にワールドカップの開催を控える日本ですが、過去8回の大会に出場しながら勝利は1991年の1勝のみという散々な成績です。95年にはニュージーランドに145対17という記録的な大差で敗れるというおまけつきです。以来、国内でのラグビーブームも下火となりつつも、W杯の自国開催を控えるという状況です。昨年のW杯は何としても結果を残し、過去の悲惨な歴史に終止符を打つ。これが合言葉の所以です。

 招聘されたヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ氏は、日本での指導経験も豊かであり、この大役を全うするために緻密な計画を立てます。それは目標から逆算した徹底したプロジェクト管理です。自分たちの力をデータを用いて数値化し、強豪国との差を見える化する。そして、その差を埋めるための優先順位を決め、戦略的に「いまからやること」「いつまでにやること」「一年後にやること」を定める。そして、自らの計画を実行するために、スタッフにも選手にも、相応の厳しいタスクを与え、その実行を厳守させるために相当厳しくコントロールしました。

 エディーの分かりやすい厳しさは、選手に課す練習量です。ラグビーというスポーツの練習の大変さは素人でも想像ができます。ましてや高校、大学を経て、日本のトップクラスに上り詰めた選手が、これまでどれほど厳しい練習を経験してきたことでしょうか。そうして選ばれた代表選手が、「今日の練習がこれまでのラグビー人生で一番つらかった」と涙ながらに語る。しかも、合宿では、それが毎日のように更新される日々が長期間続きます。