この大会で結果を残すことで、「歴史を変えることができる」という一点を目標に、エディーは選手を追い込みますが、もし大会が悲惨な結果で終われば、そのまさに「血のにじむ」ような努力は水泡に帰すことになります。そもそもこの練習に耐えても、代表から落ちる選手もいるわけで、その中で最高のモチベーションを保って練習に挑まないと、悪循環しか生まれません。

 エディー自身も不安だったことでしょう。他のチームでは実績を残してきたものの、日本代表を未知なる世界に連れて行こうとするプロジェクトです。前例がないことは、成功法則もない。考え抜いて立てた計画を実行していくのみ。それでも、計画通りやるべきことをやっても成功は保証されない正解で戦っているのです。

 この事例で興味深いのは、これが試合という一発本番に挑むチームの物語であることです。試合の当日にすべては準備され、試合当日にそれまでの努力の結果が確定するという世界です。これはビジネスの世界ではあまりありません。大切な交渉の場面、社運を握る製品開発、事業撤退の意思決定など、ビジネスでも「決定的」と言われる場面はありますが、ここまで「一発勝負」の世界はそうないかもしれません。むしろ、持続性が伴うような「勝ち続ける」ことこそがビジネスの繁栄のキモとなります。

 その中でも、ビジネスでの勝負どころはどこなのか。ここは絶対に勝たなければいけないという場面を見極める目。これがないと経営者は務まらないでしょう。

 さらに、「エディー・ジャパン」がビジネスに通じるのは、高い目標を掲げリスクを取ったところです。勝たなくてはすべてが報われない。苦しい練習や、家族と過ごす時間を犠牲にする。そして何よりも、勝つために妥協を許されない環境に置かれた精神的プレッシャーです。これらは、成果が出なくて「よい経験だった」で済ますにはあまりに軽すぎる。達成が非常に困難な目標を掲げたこと、そしてそれにコミットするリスクを負ったこと。これこそ、ビジネスに身を置く人も学ぶべき教訓かもしれません。(編集長・岩佐文夫)