異文化交渉では何が重要か

 米国中西部を拠点とする防衛企業に勤務する米国人、ティム・カーは、サウジアラビアの重要な顧客とのデリケートな交渉に臨もうとしていた。とはいえ、特に心配はしていなかった。交渉の経験は豊富だし、基本原則についてもしっかり訓練を受けていた。すなわち、人と問題を区別すること。事前にBATNA(相手の提案に合意できない時の最も望ましい代替案)を考えておくこと。立場ではなく利益を重視すること──。経験、知識、訓練のいずれも万全だった。

 サウジアラビアとの長い電話は計画通りに進捗した。カーはこの見込み客が取引を受け入れてくれるよう慎重に話を進めた。どうやら目標を達成したようだ。「では確認させていただきます」と彼は言った。「来年のプロジェクトに必要物資を供給いただくこと、エネルギー当局の関係者に連絡を取って承認を得ていただくことに賛同してくださいました。その後、私がレターを送付します。(中略)次にあなたはこうおっしゃいました(後略)」

 しかし、誰が何に同意したかという細かい説明をカーが終えても、相手はうんともすんとも言わない。そしてついに、穏やかだが断固とした声が聞こえてきた。「私はやると申しました。その約束を破るとお思いですか。言ったことを守らないとでも」