コミュニケーションのあり方は、リーダーの選出にどう影響するのか。コミュニケーションの過程で、どのようにリーダーが生まれるのか。人はどんな要因によってリーダーになるのか。

 こうしたことを考えるうえで、一連の研究結果は重要な手がかりを与えてくれる。4つの主な示唆を以下に挙げよう。

●重要なのは会話の量ではなく、会話の質
 リーダーが話した頻度は、結果に関係しなかった。話す回数が少ない場合でも、重要なのは脳の同期レベルと、先述した7つの要素によるコミュニケーションの質であった。その質が高いほど、フォロワーとのコヒーレンスと同期性は強くなっている。

●意思決定に重要なのは、非言語ではなく言語のコミュニケーション力
 一般に、非言語コミュニケーションはその人に関する多くのことを露わにするものだが、この実験ではリーダーの選定に影響していない。重要なのは言語コミュニケーション力であった。

●リーダーはフォロワーと会話を始める際に、相手への共鳴を示す(または相手から共鳴を引き出す)よう努めるべき
 脳の同期という現象を意識すれば、すぐれたコミュニケーションをもたらす生物学的条件も理解しやすくなる。つまり、リーダーはフォロワーとの会話で、最初に同期性を高めようとすることが大事なのだ。双方に共通する何かや、心理的つながりを築く方法を見つけることが重要であり、そうすれば両者の対話において高いコヒーレンスが生まれる可能性がある。

●意思決定において重要なのは、リーダーの権力ではなく同期性
 相手の立場に立ってみて、相手があなたにどう反応するかを予測してみよう。これは相手の感情を管理するうえで特に重要なスキルであり(メンタライゼーション:自他の行動を心理面から理解する能力)、訓練によって強化できる(英語論文)。リーダーは、自分の決定が他者にどんな影響を与えるか予想するための時間をとり、必要に応じて判断を変えるといいだろう(英語論文)。

 人間は脅威を感じると、社会的同調性を損なう。脳の「警報装置」である扁桃体という部位が脅威を知覚する。この事実は組織にとって示唆を与えてくれる。リーダーがリーダーと見なされるためには、フォロワーと感情的なつながりを持ち、フォロワーの立場を理解し、協力の邪魔になる脅威に対処する必要があるということだ。

 ジャンの研究で同期性を示した脳の領域は、感情の共有や、他者の精神状態の理解においても大きな役割を果たすことがわかっている。これらの能力はグループの結束と協力関係を維持するうえで重要だ(英語論文)。脳が協力的になるのは通常、社会的感情が共有された時である(英語論文)。

 フォロワーに真の影響力を及ぼしたいと望むリーダーは、この原理を念頭に置き、ふさわしい話し方をすることだ。


HBR.ORG原文:How Leaderless Groups End Up with Leaders February 19, 2016

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スリニ・ピレイ(Srini Pillay)
ニューロビジネスグループのCEO、医学士。ハーバード・メディカルスクールの臨床学助教、およびハーバード・ビジネススクールのエグゼクティブ教育プログラムの講師も務める。著書にLife Unlocked(邦訳『不安を希望に変える: ハーバード流7つのレッスン』早川書房)、Your Brain and Businessなどがある。