二兎を追うアプローチ

 戦略と起業家精神は往々にして、対極に位置するものと考えられている。戦略とは、明確に定めた道筋──あらかじめ体系的に特定した道筋を、慎重に選び抜いた一続きの活動を通して追い求めていくことだと見なされている。かたや、起業家精神はその時の成り行きに合わせようという便宜主義の典型で、ベンチャー企業は情報が舞い込み市場が急速に変化する中で、たえず新しい方向に軌道修正しなければならないと考えられている。しかし、この2つは互いになくてはならない存在だ。起業家精神を欠く戦略は中央統制型の計画にすぎず、戦略を欠く起業家精神は大混乱を招く。

 優れた戦略は、イノベーションや実験を実施すべき領域を明確化することによって、起業家的な行動を抑制するよりもむしろ促すのだが、多くの起業家たちはそのことを認識していない。一方で、既存企業の経営幹部は自社に起業家精神を採り入れたいと考えていても、往々にして、ステージゲート法[注1]やマルチプルホライゾン・プランニング[注2]などの、戦略的成長に向けた取り組みを管理する経営ツールがどれほどイノベーションを損なうおそれがあるかを、十分に理解していない。

 現状では、リーンスタートアップのボトムアップ方式と、戦略的経営のトップダウン志向を融合させることは、いまなお至難の業である。両方の世界から最良の部分を引き出す方法はあるのだろうか。