我々は、学部生とオンライン参加の成人からなる多様な母集団を対象とした9件の実験において、非倫理的健忘症の証拠を見出した。これらの実験では、さまざまな種類の出来事についての記憶を比較。自身の非倫理的行為についてどれほど覚えているか(鮮明度、詳細度)を、その他の行為の記憶と比べ検証した(英語論文)。

 ある実験では、参加者に過去の自身の体験を思い出し書き記してもらった。すると、非倫理的行為について書くよう指示された人は、そうでない行為(倫理的/ポジティブ/ネガティブだが非倫理的ではない)を書いた人よりも、行動の詳細について記憶が薄れていることが判明した。

 また別の実験では、参加者に非倫理的行為(大学の試験で不正をする学生)について書かれた物語を読んでもらった。一方のグループが読んだのは、他者を主人公として三人称で書かれた記述。他方のグループが読む記述は一人称で書かれ、自分が主人公だと想像しながら読んでもらった。ここでも、不正行為を「自分ごと」とした人のほうが、数日後に記憶が薄れている傾向が高かった。

 さらに別の実験では、サイコロを振って出た目の合計に応じてお金をもらえるというゲームをしてもらった。一部の参加者には、成績の虚偽申告による不正をしやすい状況をつくった。そして、数日後に参加者の記憶を測定。すると、不正をした参加者はそうでない人に比べて、ゲームに関する記憶の鮮明度と詳細度が低かった。

 我々はさらに、非倫理的健忘症の事後への影響を検証した。たとえば、ある2部構成の実験では、最初に前述と同様のサイコロ振りをさせ、虚偽申告による不正の機会を与えた。それから数日後、また別のタスクを通じてもう1度不正しやすい機会を与えてみた。すると、1回目の不正によって生じた非倫理的健忘症が、2回目のタスクでさらなる不正行為を誘発したのである。

 総論として、一連の実験結果でわかったのは、過去の非倫理的行為に関する記憶の鮮明度は一貫して薄れていくということだ。それはまた、人が時とともに不正を繰り返してしまう一因でもある。

 この研究が示すように、非倫理的行為は忘れやすいのである。覚えている場合でも、その記憶は他のタイプの(ポジティブおよびネガティブな)行動の記憶ほど鮮明ではない。

 意思決定を左右する心理的メカニズムを把握すれば、企業の不祥事についても理解を深めやすくなる。そして自身もより倫理的に振る舞い、組織でも倫理的行為を促進できるようになれば、なお望ましい。


HBR.ORG原文:We’re Unethical at Work Because We Forget Our Misdeeds May 18, 2016

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。ハーバード・ケネディ・スクールの行動インサイトグループのメンバーも務める。著書に『失敗は「そこ」からはじまる』(ダイヤモンド社)がある。

 

マリアム・クーシャキ(Maryam Kouchaki)
ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントの助教。経営・組織学部に所属。主な研究分野は意思決定と倫理。