5人が描いた「思い」とは
描き終えた直後に長谷部さんが感想を尋ねると、全員が「楽しかった!」と声を揃えました。それほど没頭し、楽しんで描いた参加者は、自分の思いを描き切ることができたのでしょうか。
池田さんが働くうえで大切にしているのは「正直」「変化」「つながり」だといいます。
「中心にある緑色っぽい部分は、自分自身なのか、働くうえで大切にしている抽象的なものなのか、自分でもわからないまま描いていました。そこから四隅に向かってさまざまな色で「らせん」を描き、重ねていきました。変化は円ではなく、らせん状に続いていくようなイメージがあったからです。絶えず変化をし続けることの象徴として描きました」
ただ、と池田さんは続けます。
「変化はひとつではなく、さまざまな変化が重なり合うものです。四隅にらせんを描いてそれを重ねていったのは、そのイメージを表現しようと思ったからです」
池田さんは、タイトルを「重ねる世界」としました。それにも意味があるといます。
「『重なる世界』とすると、どうしても受動的なイメージになってしまいます。自ら積極的に動くという意味で『重ねる世界』としました」
激しいリズムで描いた田中さん。
「チームワークと新しい発想をテーマに描き始めました。右の中ほどにあるオレンジ色の部分は自分を意味していて、その周辺にあるさまざまな色は、上司や同僚などの顔を思い浮かべながら描いていきました」
発表の途中で、質問が出ます。
「ひとりひとり思い浮かべながら描いたんですか?」
「まあ……だいたいですけどね。あの人は青かな、あの人はピンクかなと。ただ、自分と周囲の人のチームワークだけではなく、外部からの刺激によっても新しい発想が生まれると考えました。左上と左下からオレンジに向かって伸びる白い部分が、それを表現しています」
田中さんは、この白い部分を描いているときに、最も激しい動きをしていました。そのことを指摘されると、照れたようにつぶやきます。
「いま、ちょっと肩が痛いんですよ」
タイトルは「ひなた」。
「あたたかいチーム、あたたかい会社というイメージを込めています」
飛び入り参加の大橋さん。
「いちばん外側にある色は、いろいろな人を表しています。それが中央、つまり奥に向かってひとつになっていくというイメージを持って描きました。ただ、ひとつになることはなるのですが、途中の白い部分で表しているようにガタガタしていたり、中心に近づいてもいろいろな色に分かれている。それぞれの考えは、依然としてバラバラのままです。しかしそれを超えると、白い部分も丸くなり、全体の色も黄色1色に変わっていく。最後には、それがひとつの点になっていく。そんなイメージです」
大橋さんが働くうえで大切にしているのは「人と人との心のつながり」「相手のために何ができるのかを考えて実行する」ということだといいます。
「人と人とのつながりは、当初は横のつながりだと思っていました。ところが、描いているうちに、最後になったら点になるのではないかという考えが浮かびました。今日は、そんな学びがありました。タイトルは『人と人とのつながり』です」
変わるきっかけを模索している村瀬さん。
「働くうえで大切にしている『変化』『スピード感』『冷静な判断』という3つの思いを表してみました。中央の部分が今の自分を表していて、それが右側の赤い部分に広がっていくようなイメージです。少し線状になっているのは、スピード感のつもりです。うまく表現できたかどうか自信はありませんが。左側にブルーで描いた部分は、冷静な自分自身です。変化をするといっても、常に流されていくのではなく、冷静な部分を常に持ち、変化をしながらそこに立ち返るということを表現したかったのです」
村瀬さんは描くプロセスのなかで、今まで以上に変化を求め、自己を成長させていきたいという気持ちが湧いてきたといいます。
「変化」
タイトルも、ずばりそのものです。村瀬さんが今、強く変化を求めていることがひしひしと伝わってきました。
そして最後は、安渕さんです。
「大事にしているのは『Open』『Flat』『Diversity』です。でも、それを絵に描くのはなかなかできないので、どうしようかと思いました。実は、最初は反対の向きで描いていたのです。でも描いているうちに、Flatである以上、上下があってはいけないのではないかと思い始めました。上下をなくすには、円形にするしかありません。でも、それを表現する力量はありません。そこで、メビウスの輪のように無限に続いている絵にすればいいのではないかと思いついたのです」
安渕さんによると、左上に濃紺で描かれた長方形の『かけら』のような形と、左下に同じ色で描かれた長方形が同じものであるといいます。下側の枠の近くに現れては消え、消えては現れる山型の部分は、上側の枠のすぐ下に描かれている波線の頭の部分であるそうです。上の部分の続きが下の部分に描かれ、反対に下の部分の続きが上の部分に描かれている。まさに無限のループです。
タイトルは「開かれた自分」とした安渕さん。
この絵に込めた安渕さんの思いは、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー10月号に掲載されているインタビューに詳しく書かれています。ぜひご覧ください。
安渕さんは、このワークショップを本当に楽しんでくださったようです。
その表れとして、安渕さんは絵にご家族とともに暮らしている愛猫を描きました。細かい描写ですが、目を凝らして探していただければ見つかるはずです。このような遊び心を表現してくれた方も、初めてかもしれません。