先日お会いした元経営者が、ビジネス書の話題を振ってきたのに驚いた。引退してビジネスにほとんど関わらない方がなぜビジネス書を読むのか。そこに経営の奥深さがある。

 

経営には、人の数と同じだけの方法論がある

 仕事で知り合った方と、プライベートな関係が続くのは嬉しいものです。先日、以前お世話になった元経営者の方と久しぶりにお会いしました。引退されてからもう16年。いまは現役ではありませんが、社会や知的なことへの関心は相変わらず強い方なので、旅行や音楽のお話もどれも面白いのです。その中で驚いたのが、最近読んだ本についてでした。小説や歴史書ではなく、「この前、サエグサタダシさんの本を読んだんだ」と。「サエグサタダシ」さんが、三枝匡さんだと気づくまで数秒かかりました。今この方から、経営書の第一人者である三枝さんの名前が出てくるのが予想外でした。読まれたのは最新刊の『ザ・会社改造』。小説仕立てとはいえ、400頁を超える骨太の内容です。僕もまだ読んでいません。そう簡単に読もうと思って読み切れる本ではないでしょう。

 本の感想を仰りたかったのでしょうが、その前に質問してしまいました。「なぜいまでもビジネス書を読まれるんですか」。この方、社外役員を務めておられる話も聞きませんし、コンサルティングのような仕事も、大学などで教えることも一切やっていません。元いた会社にも、影響力が及ばないように、意図的に遠ざかっておられるほどです。

 そんな方がビジネス書を読んで、何が楽しいのだろう、というのが素朴な疑問でした。最初は、僕に気を遣って関心ありそうな話題を振ってくれているのかとさえ思いましたが、答えがまた意外なものでした。