経営革新を研究・支援するゲイリー・ハメルとミシェル・ザニーニによれば、米国では「管理職の増加」に官僚主義の増大を見て取れるという。一貫して続くこの現象は、組織と経済にとって「ガン」である、と筆者らは警告する。

 1988年、ピーター・ドラッカーは『ハーバード・ビジネス・レビュー』への寄稿論文「情報が組織を変える」の中でこう予測した。「今後20年のうちに、一般的な組織では管理階層の数は半分に減り、マネジャーの数は3分の1に縮小するだろう」と。

 残念ながら、そうはならなかった。従来のマネジメントに代わる数々の手段、たとえばギグエコノミー(単発、短期、自営型の仕事が生む経済圏)、シェアエコノミー、ホラクラシー、リーン等々への大きな注目をよそに、官僚主義は縮小どころか増大している。

 1983年から2014年の間に、米国の労働人口に占めるマネジャー、監督者、管理・間接業務者の数は90%増大した。一方、他の職種における雇用者数の伸びは40%未満であった(英語報告書)。同様の傾向は他のOECD諸国でも見られる。たとえば英国では、マネジャーと監督者の割合は、2001年の12.9%から2015年には16%に増えている。

 

 医療や高等教育などの部門では、官僚層の拡大はさらに急激だ。全10キャンパスからなるカリフォルニア大学群では、マネジャーと管理・間接業務者の数は2000年から2015年の間に倍増した。一方で入学者数の増加は38%にとどまっている。同大学群では現在、終身教授または終身在職コースの教職員1人につき、1.2人の管理・間接業務者がいる。

 今日、大規模で官僚主義的な組織で働く米国人の数は、かつてなく増加している。1993年には、従業員数が500人を上回る米民間企業で働く雇用者の割合は47%であった。20年後、その割合は51.6%に増大。従業員数5000人以上の大企業の雇用シェアは、29.4%から33.4%と最も顕著な増加が見られる。「フォーチュン500」に名を連ねる企業の雇用者数は、1995年には2000万人、今日では2700万人である。

 企業部門では、相次ぐ規模縮小によって官僚主義も減っていったのでは、と思われた方もいるかもしれない。だが、そうはならなかった。S&P500構成企業は2004年から2014年の間に、売上原価を平均で5%縮小したが、販売費および一般管理費(幹部報酬や間接費を含む)の削減は進まなかった。なんでもリーン(スリム化)で行こう、という経営陣の熱意には、限界があるようだ。

 

 官僚主義を非難するCEOは多いが、その打破に成功したと宣言する人はわずかだ。局所的な改善、たとえば管理階層の削減、本部スタッフの削減、面倒なプロセスの簡素化などはたいてい小規模で、すぐに元通りになってしまうのが実情だ。この点に関して、1つ目の図を再度見てほしい。官僚主義は2008年に景気後退で下方に転じたが、その後、たちどころに回復している。

 世界はますます複雑化しているのだから、官僚主義の増大はやむを得ない、という言い分も成り立つかもしれない。グローバル化、デジタル化、社会的責任といった悩ましい新たな課題に、上級幹部をおいて他に誰が対処するというのか。ダイバーシティ、リスク緩和、持続可能性などにまつわる新たなコンプライアンス要件に、他の誰が取り組むのか、というわけだ。

 このような考え方によって、新たな経営幹部職(チーフオフィサー)が次々に生み出された。最高アナリティクス責任者、最高コラボレーション責任者、最高顧客責任者、最高デジタル責任者、最高倫理責任者、最高学習責任者、最高サステナビリティ責任者…いまや、最高幸福責任者まで存在する(英語記事)。もっと実務的な面で言えば、日々の業務においてマネジャー以外には担えないと考えられがちなものがある。計画立案、優先順位付け、資源配分、査定、調整、管理、スケジュール策定、報酬授与などだ。

 しかしながら、我々の研究からは、官僚主義は不可欠ではないことが示されている。複雑化した世界でビジネスを行うための、避けられない代償ではないのだ。むしろそれは、経済の生産性と組織の再起力を徐々にむしばむ、ガンである。


HBR.ORG原文:More of Us Are Working in Big Bureaucratic Organizations than Ever Before July 05, 2016

■こちらの記事もおすすめします
コンプライアンス業務の自動化は「起業家社会」に貢献する
脱・官僚主義への変革はトップダウンではうまくいかない