人間に協力的なAIを
生み出すために

マイケル・オズボーン(Michael A. Osborne)
工学博士、英オックスフォード大学工学部准教授。2012年より現職。専門分野は機械学習。15年から同大学・技術と雇用研究プログラム共同代表。共著論文に「The Future of Employment(雇用の未来): How Susceptible are Jobs to Computerisation?』。人工知能が日本の労働力人口に与える影響の研究を野村総合研究所と実施し発表、注目を集めた。

川崎:話題はもう少し広い視点に変わります。オズボーンさんは、シンギュラリティ(技術的特異点)は起こるとお考えですか。

オズボーン:長期的に見れば起こると思います。ただ、バラ色の未来か悲劇的な未来かという二元論に陥ることなく、アルゴリズムを人間のために、真に協力的にすることが重要だと思います。人間の能力をAIに移植する段階において、彼らがどのようにして決断をし、どのような価値観を生み出すのか、複雑なシステムを診断するような機能が必要となってきます。また、AIの決断プロセスの透明性をいかに担保するかということも極めて大切でしょう。

川崎:先日、フェイスブック、グーグル、IBMといった企業が、業界の垣根を越えてAIの研究・普及に取り組むことが発表されました。これは個別業務に最適化されたAIから、人間と同様の幅広い能力を兼ね備えたAIへの移行が始まっていると捉えるべき動きでしょうか。

オズボーン:総合的なAIの誕生はエンジニアのビジョンとして確実に存在し、研究も進みつつあると思います。ただ、先ほどの話題とも重なりますが、強いAIにたどり着くまでにはまだ時間がかかると思います。もちろん研究は進んでいくと思いますが、ここ5年から10年というスパンでは、狭い領域でのタスクを最適化するAIが活躍していくでしょう。

川崎:AIの進化を抑制すべきかどうかという議論も盛んです。

オズボーン:エンジニアの立場で言えば、AIに限らずテクノロジーの発展は否定すべきではありません。インターネットやスマートフォンを例に挙げるまでもなく、これまでもテクノロジーによって多大な富が生み出されており、消費者がそこで大きなメリットを得ていることは明らかです。生存に直接関わるわけではないメリットのためにリスクを抱えるのかという意見もありますが、テクノロジーの発展により得られるメリットは消費者余剰だけではありません。交通事故を減らす技術、二酸化炭素の排出量を抑制する技術、人口問題を収めるさまざまな技術など、人類規模の社会課題を解決する上でテクノロジーは欠かせません。

川崎:古来私たちが手にしてきた武器も、身を守るためのテクノロジーでした。AIを人類にとって適切に進化させるためには、経済合理性や生活面の利便性でのみメリットとリスクを測るのではなく、長期的かつ広い視点での議論が必要ですね。