●明確な目標
求められる成果についてオーナーが明確なイメージを描けないと、移譲はうまくいかない。原因は基準が曖昧すぎることかもしれない(たとえば、顧客満足が目標であることは周知されているが、何をもって「高い満足度」とされるのかを誰も十分に理解していない)。または、関連する成果指標が明示されていないのかもしれない(財務目標は定まっているが、顧客体験を測定する指標がない)。
残念なことに、リーダーは往々にして、「管理」と言いながらチームメンバーに漠然とした言葉で責任を与え(「彼は“マーケティング”の担当だ」)、成果を定義しない。明確な目標がなければ、人は業務の欠点にばかり目が行き始める。
●十分な(かつ厳しすぎない)制約
巧みなマネジメントは、どこに制約が必要か、どんな制約に意味があるかを明示する。適切な制約を設けていなければ、求められる成果をはっきり定義していないことになる。すると社員は芯が定まらず揺れ動き、ゆえにマネジャーはうるさく付きまとってしまう。逆に制約が多すぎると、社員の自由を奪う。
法務担当者に対し、条件概要をナプキンに走り書きして「これで契約書を用意するように」とだけ伝えるようなやり方はどうだろうか。それが機能するのはルーチン的な取引か、法務担当者が並外れて優秀な場合だけだろう。かたや、「交渉の各段階で生じる修正事項すべてに対し、私(マネジャー)の承認を要する」と言い渡すのは、時間を無駄にすることになる。制約は足りなくても度を越えてもスポンサー失格だ。
●共通の理解
要件は文章化してもよい(そうすべきことが多い)が、最も重要なのは、そこに共通の理解があること、その理解を繰り返し確認することだ。スポンサーとオーナーの意図が一致していなければ、権限委譲は失敗に終わる。たとえば成果目標や制約が、実際の業務でどんな形をとるのかについて、双方の考えは異なるかもしれない。そのギャップを埋めるために、スポンサーは「こういうものを、こんなふうに取り組んでほしい」と明示すべきだ。
●適切な見守り
目標への責任を委譲したからといって、それを達成する能力と推進力が魔法のように生まれるわけではない。要件の実現可能性を、スポンサーが希望的ではなく合理的に期待できる場合は、ただオーナーを見守っていることが効果的だ。オーナーが明らかに順調であれば、見守りは容易である。
反対に状況が思わしくない場合は、スポンサーの腕の見せ所となる。要件の改善、アドバイスの提供、コンテキストの調整、オーナーの変更、現方針の堅持、等々に取り組む。
有能なスポンサーは、膨大な情報に触れるなかで異常を見つけても、それにみずから対処したいという衝動を抑えられる。この自制心こそが、過剰管理に陥るのを防ぐカギなのだ。しかし、透明化されて何でも見えてしまう職場環境では、自制はますます困難かつ稀となっている。