企業は危機や不祥事を、メディアに先んじて自主公表することで評判へのダメージを抑制できる。新たな研究によれば、その背後には「コモディティ理論」が作用しているという。


 自社の製品やサービスには重大な問題があり、消費者や環境に深刻な影響を及ぼす――。企業はこの事実を最初に知った時、ジレンマに直面する。問題をみずから開示すべきか。あるいは、寝た子は起こさないでおくべきか。

 倫理上では、選択は簡単だ。経営陣が問題に気づいていれば、関係する全ステークホルダーに対して、オープンかつ正直に伝えるのが道徳上の義務である。だが実際には、問題が内部的なものであり危機の影響範囲が限定的に思えるうちは、企業は公表したがらない。

 たとえば2010年、BPが史上最大級の原油流出事故に直面した時だ。同社は流出が制止できなくなったことを把握するまで、すべての事実の公表を差し控えていたように見える。

 あるいは2015年、米国環境保護庁とカリフォルニア州大気資源局が、フォルクスワーゲン(VW)による排ガス規制の大々的な不正を明らかにした時もそうだ。米VWの社長兼CEOマイケル・ホーンは、その1年前に問題を知らされていたが、沈黙を守っていた。同社は環境保護庁に調査結果を突きつけられた時でさえ、みずから最初に公表する機会を逸した。

 より最近の例では、新興の血液検査会社セラノスがある。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が同社に根付く秘密主義の文化を暴き、その血液検査技術の有効性に疑問を呈したことが、連邦当局の捜査に発展した。

 いずれの場合も、企業が危機の自主公表を怠った結果、非難報道の嵐に直面することになり、いまなお広く世間から批判的な注目を浴び続けている。ハリウッドまで関心を示し、上記3つのスキャンダルはすべて映画化されている(原油流出事故は『ディープウォーター・ホライズン』。VWとセラノスは企画・製作が進行中)。問題を認めずにいることで生じる長期的な影響については、どれほど強調しても足りることはない。

 こうした企業の二の舞を避けるには、危機にどう対処すべきだろうか。我々の研究が焦点を当てるのは、「先制公表(stealing thunder)」と呼ばれるアプローチである(慣用句としてのsteal thunderは「アイデアを横取りする、お株を奪う」という意味)。これは危機や重大な問題を、メディアに知られる前にみずから公表することをいう。

 先制公表に関する過去の諸研究によれば、企業が危機をみずから公表すると、広報部門の信頼性が高まる(英語論文)。また、自社に不利となる出来事について、第一報をみずから発表した場合、受け手は問題の深刻度をより低く認識する(英語論文)。加えて、先制公表を行う企業はより信頼できると見なされ、消費者は当該企業の製品を引き続き購入する気になりやすい(英語論文)。