こうした事例が示すのは、マネジャーおよび管理・間接業務者に対する従業員の比率は現在の2倍(4.7:1から10:1)にできるはずということだ。そうすれば、1250万人がもっと創造的で生産的な仕事へと解放されることになる。

 間接的なコスト削減効果もある。予算管理や人事考課といった、付加価値の低いマネジメントプロセスで時間が無駄にされていることは、無数の調査で示されている。これらの根拠に基づけば、社内規則にまつわる活動の50%近くは、その有益性が疑わしいと見なしてよいはずだ(この点は我々の報告書で詳しく考察している)。

 デロイト・エコノミクスがオーストラリアの非管理職者を対象に行った調査によれば、就労時間のおよそ16%が社内規則を順守するための作業に取られている。これを参考値として米国に当てはめて推計してみよう。マネジャー、監督者、管理・間接業務者(および個人事業主)以外の米国労働者1億1100万人が、16%の時間を社内規則に費やし、その時間の半分が無駄だと考えれば、年間約890万人分の仕事量が無駄という計算になる。

 前述した1250万人のマネジャーおよび管理・間接業務者と、上記の890万人を合計してみよう。米国労働人口のうち2140万人が、本人の落ち度ではなく、経済価値をほとんど創出していないことになる。これは、米国が現水準の経済生産を15%少ない労働力で達成可能であることを意味する。そうなれば労働者1人当たりのGDPは、12万ドルから14万1000ドルへと増える。

 目標は、2140万人を失職させることではもちろんなく、価値を創出する活動に再配置することだ。そうした個人が、現在のゼロ価値から毎年平均14万1000ドルの経済生産に貢献するようになれば、米国のGDPを3兆ドル増やせることになる。

 実際の数字はこれを上回る可能性が高い。マネジャーと管理・間接業務者は、一般的な労働人口よりも学歴が高い傾向にあり、たいていは技術的または職能的なスキルを有している。これを踏まえれば、もっと生産的で満足度も高いと思われる仕事に配置し直すことで、1人当たりの生産性平均を上回る成果を期待できるはずだ。

 人々を官僚主義的なプロセスによる無力化から解放し、新たな力を与えれば、数字では測りにくい大きな効果もある。自由と責任が増えることで、自発性、イノベーション、制度面の柔軟性がいっそう促進され、それが生産性のさらなる向上につながる。

 こうした副次的効果は、けっして些少なものではない。たとえば、製薬業界で名高いリーダーたちの多くは述べている。研究開発の生産性を高め、ひいてはうなぎ昇りの創薬コストを抑える唯一の方法は、官僚主義を廃することだという。メルクの研究開発部門トップを務めるロジャー・パールマターは、その手始めに「私を含めて、経営の上位5階層を撤廃する」のがよいと述べている(英語記事)。

 3兆ドルは米国GDPの17%に相当する。この負担が次の10年間で半分に抑えられたら、生産性の年平均成長率は1.3%となり、2007年以降の成長率から倍増する。

 脱・官僚主義による生産性向上は、米国以外の国々ではさらに大きいと思われる。OECDに加盟する35ヵ国における、2014年のGDPは合計49兆7000億ドルであったが、このうち米国以外が32兆ドルを占める。それらの国々でも米国同様に官僚主義が遍在するならば(遍在しないと考える根拠はまずないが)、マネジャーの数を半分に減らせば、さらに5兆4000億ドルの無駄を削減できるはずだ。これは日本のGDPを上回る額である。

 多くの経済大国で、生産性の低下が長引いている。欧州と米国では、所得の停滞と経済への悲観によって、保護主義を望む声が大きくなり、分断的で排他的な政治勢力を助長させている。

 ロボットや遺伝子研究、モノのインターネット(IoT)が、いつの日か生産性を飛躍的に高めるはずだという期待の声もあろう。しかし我々は、官僚主義の増長を覆すために一致協力して取り組むことが、経済成長を促進するより近く確実な道であると信じている。


HBR.ORG原文:Excess Management Is Costing the U.S. $3 Trillion Per Year September 05, 2016

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