企業における官僚主義の撤廃と生産性の向上こそ、国の経済に寄与する――これが筆者らの一貫した主張だ。マネジャーと管理・間接業務者の多さ、そして社内規則を順守するための作業は、どれほど膨大な損失となっているのか。


 現在、大規模で官僚主義的な組織で働く米国人の数は、かつてなく増えている(前回の記事を参照)。しかし官僚主義は、生産性や組織的柔軟性、イノベーションの大きな足かせとなっているという、説得力のある根拠がある。我々の計算によれば、米国経済における過剰な官僚主義のコストは、3兆ドルを上回る経済生産高の損失に相当する。これはGDPの約17%である。

 計算をしてみよう。我々が米国労働統計局の職業データを分析したところ、2014年の米国の労働人口には、2380万人のマネジャー、現場監督者、管理・間接業務者が存在した(公共・民間の両方を含み、IT関連の職能は除く。なお筆者らの報告書における管理・間接業務の例は、人事、人材育成、財務・会計、サプライチェーン管理、コンプライアンス管理、購買など)。これは、従業員4.7人に対して、マネジャーが1人と管理・間接業務者が1人いる計算になる。全体では、マネジャーと管理・間接業務者は米国労働人口の17.6%を占め、報酬合計額の30%近くを受け取っている。

 これら2380万人のうち、実際に必要なのは何人だろうか。その答えは、脱官僚主義を実践する先駆的企業(少数だが増えつつある)の経営手法を見ればわかる。このような企業の経験からは、大企業で典型的に見られる管理職数の半分以下で、複雑な事業を運営できることが示唆されている。

 先駆者の例を挙げよう。米国で最も収益を上げている鉄鋼メーカー、ニューコア。世界最大のトマト加工業者、モーニングスター。ゴアテックスで有名な30億ドル規模のハイテク素材メーカー、W.L.ゴア。ストックホルムを拠点に北欧と英国に800以上の支店を持つ銀行、スベンスカ・ハンデルスバンケン。油圧関連部品のトップメーカー、サン・ハイドローリクス。オンラインゲームの先駆的な開発企業、バルブ。ノースカロライナ州ダーラムにある、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェットエンジン工場。

 スベンスカ・ハンデルスバンケンは特によい例だ。同社の株主資本利益率(ROE)は、1971年以降毎年、欧州の同業他社を凌駕している。1万2000人の全従業員に対して、階層は3つしかない。業務上の意思決定はほぼ完全に分権化されている。各支店は独自に、融資の決定を下し、融資と預金のプライシングを行い、マーケティング予算を管理し、支店固有のウェブサイトを(全社共通のプラットフォームで)運営し、管轄区域のあらゆる顧客層(個人から多国籍企業まで)を相手にする。

 こうしたやり方はほぼすべて、従来の銀行の常識に反する。つまり、効率をよくするためには、業務活動を統合し、プライシングや融資のような意思決定は中枢で一元化しなければならない、という通念だ。実際、スベンスカ・ハンデルスバンケンの費用対利益率の高さと貸倒率の低さは、一貫して業界水準を凌いでいる。

 これらの先駆的組織における統制範囲(1人のマネジャーが管理する人数)の平均は、米国平均の2倍を上回る。GEのダーラム工場はその最たる例で、300人超の技術者に対して監督者は1人、工場長のみである。そして同施設の生産性は、GEアビエーションにおける姉妹工場の2倍を超えている。