我々は近年の社会心理学の研究成果を参考にした。心理学の研究によると、「男らしさ」は一般に、「不安定」なもの(本人の努力による獲得と維持を要する)と見なされている。したがって、社会的交流のなかで頻繁に男らしさを「証明し、認知させる」必要がある(英語論文)。
また人類の進化に関する研究では、男らしさの不安定さは、環境への適応力が進化した結果だとされている(英語書籍)。つまり男性は、資源と女性をめぐって他の男たちとの競争を迫られてきたからだ。
我々の研究で示されているのは、いまなお残る上記の行動パターンが、共同での意思決定時にも現れるということだ。ともに決定を下す男性たちは、「女らしい」とされる基準(中庸、適度を重んじる)からできる限り遠い、男らしい行動を取らねばならない、と感じる。すなわち、極端や過激を重んじることだ。男性同士の決定では、男らしさの表現が妥協効果を弱めるのである。
歴史的に、女らしさはそれほど不安定ではないことが証明されている。男性のようなジェンダー表現の必要を感じないからこそ、女性同士のペアには妥協効果が現れ、男性とは対照的に、集団でも単独時と同じように行動するのだろう。
さらに、男女ペアの意思決定では、女性の存在によって男性の男らしさが際立つ(誇示の必要が減る)。これが理由で、単独時や女性ペアと同じように妥協的な行動が観察されたのだろう。
幸いなことに、中庸を選びたい男性たちにも手段はある。我々の発見によれば、男性同士のペアに対して、意思決定を下す事前に「男らしさを表現する機会」を与えると、妥協的な選択肢を避ける傾向が消えるのだ(例:実験参加への報酬として、いかにも男性向けの雑誌を共同で選んでもらう)。これほど単純な行為によって、男性ペアも女性ペアと同じくらい妥協的になったのである。
これらの研究結果は、マーケター、マネジャー、消費者にとって実用的な意義が大いにある。マーケターはしばしば妥協効果を利用して、商品構成の計画、製品のポジショニング、消費者の選択の誘導などを行う。その際、製品・サービスの受け手が決定を下すのは1人でなのか、それとも共同でのほうが多いのかを知る必要がある。そして、意思決定グループの性別構成も考えねばならない。