第1に、さまざまな物が接続し合う世界では、数十億ドルを使って消費者に自社ブランドをリマインドするのは、あまりにも浪費だと思われるようになる。広告費はその代わりに、次の方策へと再配分される。顧客との関係構築、既存ブランドへの挑戦、消費率の向上、そしてアルゴリズムの設計者や所有者に影響を与えることだ。
アルゴリズムに影響を与えるというのはたとえば、ソフトウェアにプリインストールされる「ネイティブブランド」や「デフォルトブランド」として採用されることだ。
すでに周知のとおり、スマートフォンやPC購入者の90%は、デフォルト設定をほとんど変更しないという慣性がある。ここに食い込めば、大いに有利となるはずだ。それが参入障壁となり、デフォルトブランドは利益を享受する。一方、不採用のブランドは、挑戦者として、(少なくとも日用消費財のカテゴリーでは)消費者の慣性だけでなく、プログラム化されたボットの慣性も打ち破らなければならない。後者のほうがはるかに困難である。
第2に、ブランドロイヤルティが再定義され、マーケターは「単なる再購入」と「実際のロイヤルティ」の峻別を迫られるだろう。既存ブランドは、自社に忠実なのはアルゴリズムなのか、あるいは消費者なのかを検証する必要がある。挑戦者にとっての命題は、何をすれば消費者はアルゴリズムのデフォルト設定を変更せざるを得ない気になるか、である。
第3に、現在のマーケティング戦略の大部分は、「広告や市場情報に関する消費者の解釈は不完全」との考えに基づいている。選択的な注意・記憶(自分が重要だと思う情報のみに注意を向けたり記憶したりすること)などをはじめ、人にはさまざまな認知バイアスがある。したがってマーケティング調査では、広告メッセージどおりの消費者行動を促すことが焦点とされる。コンバージョン率(広告を見た人のうち、実際に購入する人の割合)を上げることで、広告の有効性を高めようというのが目標だ。
しかし、ルーティン的な意思決定が人間ではなくボットによって成されれば、マーケターはボットを相手にしなければならない。そしてボットは、認知バイアスなしに、言われたとおりに実行する傾向がある。したがってマーケティング調査では、ボットに影響をおよぼすポイントを理解することが主眼となる。ボットの情報源は何か、最適化のためにどんな条件がプログラムされているのか、どんな学習アルゴリズムなのか、等々だ。
消費者調査で焦点となるのは、消費パターンの理解や、ブランドロイヤルティの維持といった戦略的課題となる。
第4に、接続された機器の影響が及ぶのは、ルーティン的な購入だけに限定されない。企業と顧客のやり取りの多くは、企業と製品の間で直接生じるようになるだろう。たとえば、安全策や修理のためのリコール対象となった車は、使用されていない時間に自動走行で販売店に行く。そうなれば、リコール実施率は現在の30%から100%近くに上昇する。
食器洗い機と電気掃除機のソフトウェアは無線で更新され、薬は使用期限が過ぎると容器が開かなくなる。そして、不愉快なやり取りはボットに引き継がれる。たとえば電話会社に電話をかける時、ボット(自動音声)を相手にすることにうんざりしている消費者は、代わりに自分のボットと相手のボットでやり取りさせるようになる。
買い物とマーケティングのロボット化によって、マーケターと消費者の交流方法、そしてブランド間の競争方法が変わる。消費者行動における諸々の不完全性をマーケティングの方程式から取り除けば、マーケティングの有効性は確実に上がるだろう(広告費の節約だけでも膨大だ)。しかし、真の好機はコスト削減よりも、顧客との関係を再定義することで見えてくるのだ。
この点について、自社の機器に考えさせてみてはいかがだろうか。
HBR.ORG原文:How Marketing Changes When Shopping Is Automated October 14, 2016
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ニラジ・ダワル(Niraj Dawar)
カナダのアイビー・ビジネススクール教授。マーケティングを担当。著書にTILT: Shifting your Strategy from Products to Customers(Harvard Business Review Press, 2013)がある。