仕事の生産性や創造性を促進する要素として、働く人のマインドが重要であることは言うまでもない。この、モチベーションの考え方に新しい枠組みを提示したのが、『マネジャーの最も大切な仕事』である。仕事のやりがいで最も大切なものは何か。
働くうえで人間関係より重要なもの
社員がイキイキと働くことで企業の業績は上がる。そのためマネジャーの最大の仕事は、社員をやる気にさせることである。この主張に反論する人は少ないだろうが、では、どうすれば社員がイキイキと働くのか。このメカニズムにはモチベーションの内的動機と外的動機の分析以上のものが出てこなかった。
本書『マネジャーの最も大切な仕事』は、この構造に新しい枠組みを提供するものである。それは、「インナーワークライフ」という概念だ。インナーワークライフとは、個人が内面で感じる仕事体験の満足度と言い換えることができ、それは、認識と感情とモチベーションの相互作用によって形成される。そして豊かなインナーワークライフは、その人の生産性、創造性、コミットメント、同僚性(collegiality)を上げると本書で主張する。
このような結論を導いた背景がまたユニークである。著者の一人テレサ・アマビールは、ハーバード・ビジネススクール教授で、組織の創造性やモチベーション研究の第一人者として知られ、Harvard Busines Reviewの主要執筆者でもあるので、DHBRの読者にはお馴染みであろう。もう一人の著者、スティーブン・クレイマー氏は、心理学者でアマビール教授と数々の共同研究を実施してきた。二人は、社員がイキイキする要因を調べるために、669人のマネジャーに日誌をつけてもらい、それらを分析した。集まった日誌は1万を超え、それらを丹念に読み込み分析した結果、インナーワークライフに影響を与える3つの要因を突き止める。それらは、①やりがいのある仕事における進捗、②自分の仕事を支援してもらう「触媒ファクター」、③やる気を増発される人間関係という「栄養ファクター」である。そして、とりわけ、①のやりがいのある仕事における進捗こそ、仕事の成果を最大化させる最大の要因である、と結論付ける。