人の本質に根ざした方法論
これはある意味、正論回帰にも思える。どれだけ仲のいい人と一緒にしようが、その楽しさは仕事の本質とは言えない。快適なオフィスや優雅なカフェテリアも働く人にとって望ましいものであることは疑わないものの、それが会社を選ぶ決定的要因にすることはない。仕事のやりがいを仕事から得る。この本質的な原則からも、やりがいのあると思える仕事をすること、そしてその仕事に進捗を感じられること、これこそが最も大事なのである。やりがいのある仕事の重要性も疑わないが、そこに進捗感が必要なのだ。著者はこの進捗に関し、小さくても構わないと言う。つまり価値あるものに従事し、それを増幅している感覚が重要なのである。
モチベーションの構造をここまで、分かりやすく、かつ納得感のある形で提示する枠組みは貴重である。マネジャーが社員をいかにやる気にするかという命題に対し、思いやりや厳しさという感情要素を超えて、仕事の与え方そのものに解決策を見出すことができるのだ。
本書のもう一つの素晴らしい点は、インナーワークライフを下げる3つの要因にも言及していることだ。それらは、①仕事の障害、②仕事を直接妨げる「阻害ファクター」、③悪性な人間関係が生み出す「毒素ファクター」である。
マネジャーは最低限、これら3つの要因を取り除くことから始めても、職場の雰囲気と成果は劇的に変わるのではないだろうか。
本書の監訳は、元早稲田大学ラグビー部監督で、現在組織リーダーの育成プログラムを提供している中竹竜二氏である。監訳者まえがきで中竹氏は、この本の印象を「わたしたちは人間である」という言葉で表現している。本書の冒頭に出てくるこの突飛な言葉に最初戸惑ったが、本書を読み切った後にこの言葉を思い出すと、胸に深く刻まれる。マネジャーは人と接する仕事なのは当たり前だが、その人の持つ本質から直結した方法論を提示しているのが本書の最大の魅力である。