CEOのアクティビズム(社会向上のための積極行動主義)がもたらす影響について、諸研究ではリスクとメリットの両方が指摘されている。

 デューク大学のアーロン・チャタージとハーバード・ビジネススクールのマイケル・トフェルによる最近の研究では、インディアナ州の「反LGBT法」にアップルCEOのティム・クックが表明した抗議に、消費者がどう反応したかを検証している(英語論文)。その結果、実験参加者の購買意図は、クックの立場に賛同するか否かに応じて変動することがわかった。実験では、クックの声明が購買意図に及ぼしたプラスの影響は、マイナスの影響を上回った。

 ただし現実の世界では、クックによる声明発表後の2015年初期に、顧客が実際にどう反応したかを判断するのは難しい。アップルの売上高は季節性や新製品の投入といった諸要因に左右されるからだ。ともあれ、研究者らはこう記している。「議論の的となっている問題についてCEOが立場を公にするとき、見解を同じくする人々からは自社への支持を喚起できる。そして、反対する消費者を遠ざけるリスクも生じる」

 別の研究も見てみよう。ウェーバー・シャンドウィックとKRCリサーチが2016年に行ったオンライン調査では、次のことが明らかになった。

・渦中の問題が、その会社の事業に直結するものである場合、消費者がCEOのアクティビズムに賛成する傾向は強まる

・ミレニアル世代(2000年以降に成人となる人々)は他の世代よりも、アクティビストCEOを支持する傾向が強い

・CEOの政治的声明は、購買意図に影響を与えうる

・多くの米国人は、政治的立場を明らかにするCEOの第一の目的は「メディアの注目を引くこと」だと考えている

 ウェーバー・シャンドウィックのチーフストラテジストであるレスリー・ゲインズ=ロスは、この調査について以前のHBR記事でこう述べている。「企業は、議論の的となっている問題への対応でメリットを得てリスクを抑えるためには、内外のステークホルダーの態度をしっかり理解する必要がある。そして、自身の立場が自社の価値観と事業にどう関連するのかを明確にしなければならない」

 トフェルは入国禁止措置について、CEOらが不支持を表明する方法そのものの機微に着目している。ゼネラル・エレクトリック(GE)をはじめ一部の企業は、「懸念」というかなり限定的な声明にとどまり、新政策が自社の海外出張者をいかに混乱させるかを焦点としている。

 もっと強硬に、新政策を倫理面から非難するCEOもいる。セールスフォース・ドットコムの創業者でCEOのマーク・ベニオフは、一連のツイートの1つでマルコの福音書を意訳して投じた。「我々が心を閉ざし、他者をみずからと同じように愛することをやめれば、自分たちの真の姿を忘れてしまう。我々は諸国を照らす光であるはずだ」。別のツイートでは、「私は彼女とともに」という簡潔な一言に、自由の女神の画像を添えている。

「実務面の議論をするCEOもいれば、倫理を論じるCEOもいます。そして両方を組み合わせる人もいます」。こう述べるトフェルは現在、CEOが政治的見解の表明に伴う複雑さを考慮する際の助けとなる、研究に根差したフレームワークの開発に取り組んでいる。

 彼の指摘によれば、声明の内容よりも、それが周知される方法によって、CEOがどれほど前面に出ようとしているかが浮き彫りになるという。入国禁止に反対するCEOの多く(特にハイテク以外の企業)は、社内メモを従業員に通知し、それがメディアに流れている。これは世間に直接ツイートするよりも穏便なやり方だ。

 イスラム教徒が標的と思われる今回の入国禁止は、違憲の疑いで連邦判事がすぐに差し止めに動いた。このような政策に抗議することは、表面的にはリスクが低いように見える。何しろ、ディック・チェイニー、エリザベス・ウォーレン、コーク兄弟(保守派の大富豪)、デイル・アーンハート・ジュニア(NASCARドライバー)が全員一致で反対しているのだ。

 とはいえ、反対への支持がこれほど広くてもなお、声を挙げる企業にはリスクが伴う。ゲインズ=ロスは言う。「表明は簡単とは思えません。入国禁止に関する懸念をどう述べるべきか、深く考え込んでいるCEOはたくさんいます」