多くのCEOが慎重な姿勢を見せているのには、少なくとも3つの理由がある。

 第1に、入国管理に関するトランプ政権のスタンスは、多数の米国人に支持されている。1月初旬のある世論調査では、48%がテロ多発地域からの入国の停止に賛同している(反対は42%。さらに、53%がイスラム教徒の登録義務化を支持)。したがってこれを批判するCEOは、トランプ賛同者という大きな消費者層を怒らせるリスクを負う。「効果なし」「非生産的」「違憲」と散々に叫ばれているこの政策を批判することで、自分が多数派に属していると確信していても、やはりリスクはあるのだ。

 第2に、この問題には非常に多くの感情がつきまとうため、人々が軽率に反応し、理由さえ不明確のまま企業に制裁を加えるおそれがある。

 ウーバーがその一例だ(英語記事)。入国禁止令の翌28日夜、ニューヨークのJFK国際空港にデモ参加者が集まっていた頃、同地域のウーバーは需要ピーク時の「料金割増をオフにします」とツイートした。

 これを読んだあるツイッターユーザーが、入国禁止へのストライキで一時運休していたタクシー運転手らを逆なでする行為だと誤解した(タクシー運休の隙に儲けるために割増をなくすのだろう、という邪推)。

 別のユーザーが、ウーバー共同創業者のトラビス・カラニックはトランプ大統領の「戦略政策フォーラム」の一員であるとツイートで指摘。ほどなくして、#deleteuberのハッシュタグがトレンド入りし、ウーバーは守勢に立たされた。しかし、カラニックは事態発生の少し前に、来たるトランプとの会談は「信念に基づく対立」の機会と見ていることを表明していたのだ(フェイスブックでのコメント。カラニックはその後の2月2日、入国禁止令を理由に戦略政策フォーラムからの辞任を社内メールで発表)。

 第3に、トランプ政策への批判に伴う最大のリスクは何といっても、大統領のツイッターアカウントが持つ威力とリーチであろう。当選後のトランプによる批判的ツイートは、ボーイングやトヨタなどの株価を(一時的ではあるが)引き下げた。証券会社は、大統領の攻撃的ツイートに即座に反応する取引アルゴリズムまで開発している。

『ニューヨークタイムズ』紙の記者で広い人脈を持つアンドリュー・ロス・ソーキンは、CNBCにこう語っている。彼が知る経営トップの多くは、トランプの怒りのツイートが自社に向けられる可能性に「心底怯えて」おり、トランプを批判する気になれないのだという。

 もちろん、反対の声を挙げないことにもリスクはある(それを定量的に測るのは難しいが)。最も顕著なのは、入国禁止(または新政権のその他諸々の政策要素)に反対する従業員が、CEOへの信頼を失い、それが士気低下や離職増加の可能性につながることだ。

 すでに一部の企業では、CEOや取締役の政治的見解を直接的な原因とする離職や売上減に見舞われている。

 2016年11月、IBMのCEOバージニア・ロメッティが公開書簡でトランプへの貢献の意向を発表した。すると、同社のシニア・コンテンツ・ストラテジストは、これに抗議し辞職した(英語記事)。アウトドア用品メーカーのL.L.ビーンは、取締役の1人がトランプ支持団体に献金したことが報じられた後、不買運動の標的にされた。

 入国禁止に対して率直に声を挙げる企業は、刻々と増えている。CEOのアクティビズムの歴史において、このひと時がどれほど重要となるのか、容易には判断できない。しかし、大きなインパクトとなる可能性はある。

 ゲインズ=ロスはこの事態をめぐる騒動が「転換点になりうる」と指摘する。「自社の価値観と信条を守ろうとするCEOらの動きは、大きなうねりとなるでしょう」

 それが実行される別の機会が、まもなく来るかもしれない。一部の報道によれば、トランプ政権は現在、米企業が海外から高スキル人材を採用するための就労ビザ(H-1B)に規制をかける、新たな大統領令を準備中であるという。


HBR.ORG原文:CEOs Face Off Against Trump (or Not) January 31, 2017

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ダニエル・マッギン(Daniel McGinn)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニアエディター。