参加者それぞれが絵に込めた思い
1人目は、誰よりも早く描き始めた福田さんです。
福田さんは、ワークシートに大量の言葉を書き連ねました。
【食い下がる。前に進み続ける。自分を壊しながら創りかえる。内省する。本当に価値があるのか/本質的に&社会に貢献できているのか問い続ける。失敗を認める。甘んじない。追求する】
そんな強い思いから、福田さんの発表からも溢れ出ます。
「シグマクシスに新卒で入社してから6年目が終わろうとしているのですが、この6年間の私の汗と涙(笑)の結晶、苦しんできたことを描きました」
2年ごとに領域が変わっている福田さん。最初の2年はとにかくお客さまの期待に応えようという一心で、がむしゃらに階段を駆け上がってきたといいます。
「でも結局、2年かけた私のプロジェクトは、お客様の成果につながらないまま終わりました。結果的に価値を出せなかったことは、私のコンサルタントのスタートとして強烈な体験で、今でも心に残る原体験になっています」
次の2年は絶対に同じ失敗をしないということだけを目指したといいます。
「お客さまに何が何でも価値を出すために、また必死に階段を上がったのですが、振り返ってみるとシグマクシスが頑張りすぎたために、今度はお客さまの主体性が弱くなってしまったのが心残りでした。最近の2年はこのVision Forestに携わっていますが、とにかくお客さまの主体性を大事にすることを考えるようになりました。でも、主体性には正解がないので、試行錯誤を重ねながら見つけているところです」
福田さんが仕事で大切にしているものは一つではありません。
「ひと言では言えないんです。それぞれの仕事をやっていくうえで、がんばって、振り返って、次にやるべきことを見つけていく。それがどんどん変わってきている。これからもお客さまの幸福、お客さまが生き生きと楽しく働けることのお手伝いができるようにやっていきたいと思っています」
その思いから、福田さんは「追究」というタイトルをつけました。
続いて溝畑さんです。溝畑さんも福田さん同様、働くうえで大切にしていることを数多く挙げています。
【好きであること、オタク、多様性、柔軟、インスピレーション、チャレンジ、失敗、情熱、狂う、遊ぶ、一体感】
溝畑さんは今回、絵を描くにあたって決めていたことがあるといいます。
「これまでは構図を考えていたのです。ゴールを目指すといったら、右を上にしなければならないとロジカルに考えてしまう。でも、ロジカルに考えてロクな絵が描けた試しがありません。今回は、描きながら思ったことをどんどん表現しようと思いました」
さらに、今の仕事について語り始めました。
「僕たちのチームは、その分野だけが好きな『オタク』のような人が集まったチーム。でも、その分野が好きな人が集まると、イノベーションが起こると信じているんです」
これも多様性の一つです。
「多様性のなかからイノベーションが生まれることは伝えたい。でも、多様性にもいろいろあります。僕は『intellectual fighting』という言葉が好きなのですが、誤解を生む言葉でもあって、争いのように思われるのが嫌なのです。それで、多様性がうまく融合しているものは何かと考えました。浮かんだのが、虹だったのです」
虹は7色。混ざっていない。でも溝畑さんは、この固定観念にチャレンジしました。
「見える部分はそうかもしれませんが、端っこのほうは混ざっているのではないか。色が混ざると汚くなるものですが、混ざれば混ざるほど純粋で楽しくなるはずだから、真っ白にしてやろうと思ったのです。混ざって、混ざって、真っ白になる。そういう絵が描ければ、今の僕の思いと合っているのではないかと考え、こんな絵にしました」
タイトルは「ニジのシズク」としました。
3人目は倉重さんです。
【社員のハピネス】
これが、倉重さんが挙げた働くうえで大切にしていることです。
「まず、働くうえで大切なことを考えるときに、迷いました。私個人で考えることか、今の私の立場として考えることか。最初になかなか手を動かせなかったのは、どちらにするべきか迷っていたからです。迷った結果、やはりこういう立場に立っているのだから、立場として考えることにして、描き始めました」
倉重さんは、企業経営におけるステークホルダーは少なくとも4つあるといいます。
「それは、社員、お客さま、株主、世の中です。このステークホルダーをハッピーにしなければならないのですが、どの順序でハッピーにすればいいのかが大事です。よく、株主が大事だといいます。もちろん、株主は大事です。でも、株主をハッピーにするのは、お客さまが私たちに売り上げをくれるからです。ということは、私たちシグマクシスと付き合うことが、お客さまをハッピーにしていることになります。では、お客さまをハッピーにしているのは誰なのか。それはシグマクシスの社員です」
私ではない。倉重さんははっきりとそう言いました。
「ハッピーな社員じゃないと、お客さまをハッピーにはできません。そう考えると、大事にしなければならないのは、私の目の前にいる社員をハッピーにすることです。社員をハッピーにすれば、その社員がお客さまをハッピーにして、そのお客さまが株主をハッピーにする。ハッピーな株主が私をハッピーにしてくれる。そして、ハッピーになった私がさらに社員をハッピーにしていく。そういう循環ができているのが望ましいのではないか。そう考えてこの絵を描きました」
タイトルは「パッション!」です。そこにも意味がありました。
「ハッピーな社員が、お客さまをハッピーにするんだという強い情熱をもって働いてくれると、今の循環が回るのです。だから、絵の線で示した部分が、社員1人ひとりのお客さまをハッピーにするんだというパッションなのです」
最後は、「描く」のが初めてだった齋田さんです。齋田さんは、どんな思いを絵にしたのでしょうか。
齋田さんが大事にしていることは【自分の“じく”をぶらさないこと】です。齋田さんは開口一番、力強く言い切りました。
「力作です(笑)」
さすがトップアスリート。一瞬にして、場の主導権をすべて持っていきました。常に注目されている人は違います。でも、齋田さんがはじめに語ったのは「謙虚」という言葉でした。注目されて天狗になっていては、今の時代、アスリートも認められません。
「自分はだいぶ年齢を重ねてきたので、教えてくれるコーチも自分より年下が増えてきました。でも、選手はものを教わる立場。教えていただくことに、謙虚に耳を傾けることが大事です。それを白い線で表しています」
齋田さんは続いて、青い線と赤い線について言及します。
「青い線は、自分の身体のエネルギーです。エネルギッシュに練習し、エネルギッシュに試合をする。そしてこの赤い線は情熱です。謙虚さ、エネルギー、情熱という3本柱が大事だということを表現したかったのです」
さらに、齋田さんは線の「迷走」について話し始めました。
「調子がいいときは上がっていきますが、いつまでもそれは続きません。でも下がりかけたところですぐに調整しようとすると、調子は上がるには上がりますが、上がり方は少なくなってしまいます。ダメになったときには、十分にエネルギーを溜めて、何かいけないのか、何をやらなければならないのか、ゴールに向かっていくためには何が必要なのかということを考える時間が必要です。自分の調子が下がりかけたからといってすぐに上がろうとせず、エネルギーを溜めて上に上がっていくということが大事だと思います」
この言葉は、アスリートに限らず、あらゆる仕事をしている人に当てはまる言葉ではないでしょうか。
そして、絵の右上にある白い雲のようなものは、その先にあるゴールへの道を阻害するものの数々です。
「こうしたものをクリアするには、勢いをつけて、阻害するものを突き破ってその先にあるゴールに向かっていかなければなりません。そのためにも、エネルギーを溜めることが必要になるのです。そんなことを表現しようと、この力作を描きました(笑)」
タイトルは「ゴール」です。2020年の東京パラリンピックという次なるゴールに向けて進まれる、齋田さんそのものとも言える1枚です。
なお、倉重さんの「描くこと」への思い、この「Vision Forest」という企画に対する思いの詳細については、3月10日発売のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー4月号に掲載されています。ぜひご覧ください。
※本連載は、今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。