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人はいかに他人に惑わされて行動してしまうものか。本書『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』は、そのメカニズムである社会的影響力の存在を白日にさらす。その上で本書は、社会的影響力を味方につけることで、人の力をさらに出せる環境をつくれることのヒントを提供してくれる。
消費者は、他人の選択と同質化も異質化もする
人は自分ひとりで意思決定できない人を優柔不断と言う。他人の意見に惑わされず、自分の考えで決断すること。これが、正しく、強い意思決定と思われている。しかし、この考えに複層的な視点を提供するのが、本書『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』である。
書名の「インビジブル・インフルエンス」(見えざる影響力)は、本書のキーワードでもある「社会的影響力」を指している。人は無意識のうちに、他人からの影響力を嫌というほど受けている。しかも、その影響力の存在にほとんどの場合気がつかず、「自分で決めた」と思い込んでいるのである。
事例は本書に、これでもかというほど紹介されている。音楽のヒットチャートに上がる曲がますます聴かれるようになること、レストランのランチでの注文も他人に影響されること、住んでいる地域やコミュニティの影響だけで選挙での投票結果が変わること、などなど枚挙に暇がない。
著者は、この意思決定に他者の影響を受けることを、「よからぬ意思決定である」とは一言も言及しない。むしろ逆で、その存在を認めることこそ本書の最大の主張である。
他人の意見に影響されることで、意思決定が似ることがある。たとえば、人は見たことのある回数が多いほど、その人が好きになるという実験結果が紹介される。影響力のある著名人が着た服が売れるという現象もよく知られている。そのため、本書では、あるアパレルメーカーが自社のブランドイメージに合わない著名人に対し、お金を払って「自社ブランドを着ないように」お願いしている例も登場する。
他者からの影響は、意思決定の同質化とは逆に、異質性も生む。「みんな着ているから」という理由で、その服が選ばれないこと。あるミュージシャンをデビュー当時から応援している人は、そのミュージシャンに人気が出ると「昔の方がよかった」という反応を示すこと。これらは、「自分らしさ」をアピールしたい欲求から生まれるものだが、その前提に社会的影響力の存在が欠かせない。
このように同質化も差別化も生むのが社会的影響力の正体なのだ。
著者は、ペンシルベニア大学ウォートンスクールの准教授であり、専門はマーケティングである。『ハーバード・ビジネス・レビュー』にもしばしば投稿されており、ユニークな消費者心理の研究結果を発表している。本書もマーケティングにおける消費者心理を再考する上で大きなヒントとなるが、魅力はそれだけではない。