とはいえ、どうすれば非技術系の社員に、クラウド通信APIの仕組みを理解させることができるのか。

 この命題から生まれたのが、Twilioで「コーディング・ブートキャンプ」と呼ばれる慣習である。すべての新人は入社後最初の週に、コーディングを学ぶ1週間の速成コースに申し込むよう求められる。この期間、当社のエンジニアリングチームの数名がボランティアで講師を務め、新入社員に全5回・各2時間のレッスンを提供する。

 最初の3回は、Twilioのプラットフォーム上で動くシンプルなアプリ(電話会議、音声録音、テキスト自動応答など)のつくり方を一歩ずつ学んでいく。残りの2回は、小さなグループに分かれ、自分たちで考えたアプリのアイデアに取り組み、エンジニアがそばについてトラブルを解決する。

 全受講者はPython言語でのコーディングを教わり、同じ用途のもの(テキストメッセージアプリ、音声自動応答アプリなど)を学習するが、その後は各人独自のアプリを完成させなくてはならない。これまでの作品には、テキストメッセージで誕生日を知らせるアプリ、渋滞警報システム、親の外出時に子どもに子守歌を奏でるアプリなど、さまざまなものがある。

 マーケティング、営業、採用、財務などの担当者も含む全員に、1週間かけてアプリをつくらせるのは奇妙に思えるかもしれない。彼らはこのスキルを、日々の業務ではけっして使わない。しかし、これがTwilioの通過儀礼なのだ。技術職か否かを問わず、全員がTwilioの通信プラットフォームを使ってアプリをつくり、会社の夕食会でプレゼンテーションする。そして、Twilioのプラットフォームを通じて電話またはテキスト送信ができるアプリの開発に成功したことを、社員たちの前で証明できれば、Twilioのロゴが入った赤いジャージを受け取り、社員たちに盛大に喝采されるのである。

 そうして「顧客の立場に立って考える」ことは、ブートキャンプを通して、壁に飾られた標語以上のものになる。これによって650人の全社員が、自社の製品について、そして顧客がそれをどう使う可能性があるかについて、明確に理解できる。その結果、営業担当者の能力も製品マネジャーの共感力も上がる。そして社員は部署を問わず、仕事に対する満足感、生産性、情熱を高めるのだ。

 全社員にコーディングを教えるという手法は、すべての会社に適しているわけではないだろう。しかし私は、規模を問わずどの会社にも、社員と顧客を結びつける何らかの方法を見つけるようお勧めしたい。

 これは特に、B2Cではない企業にとって重要だ。Facebookの採用担当者ならば、全社員がFacebookというプラットフォームを使う感覚をそれなりに理解していると考えても問題ないだろう。しかし法人相手の商売をしている会社、あるいはTwilioのように開発者のための技術製品をつくっている会社にとっては、顧客への共感はより難しい。

 結局のところ業績を左右するのは、いかなる企業戦略よりも、情熱と共感力を持った社員たちである。どんな内容のブートキャンプにせよ、それを通して社員に自社の製品やサービスを理解させ、使う人の立場に立てるようにする手立てはあるはずだ。


HBR.ORG原文:Why We Ask Every New Employee to Code an App Their First Week on the Job  December 23, 2016

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マシュー・ノワック(Matt Nowack)
TwilioのプラットフォームAPI設計者。同社のコーディング・ブートキャンプの創設メンバーで、最初期にボランティア講師を務めた。