一般に、目標を達成するまでの過程は柔軟に選択できることが望ましいとされている。しかし、筆者らの研究により、目標達成までに進むべき道のりを厳格に定めたほうが、より効果的な場合があることが示された。
ワインのオンラインショップYesmywine (也买酒)は、顧客ロイヤルティを促進するために、同サイトでワイン1本を購入するたびに「カントリー・メダル」と称するスタンプを贈っている。そして、1年以内にメダルを12個集めた顧客には、ワインを1本無料といった特典がある。
これは、極めて標準的なロイヤルティ・プログラムのように聞こえるだろう。だが、実は違う。そこには裏があるのだ。
そうした特典を得るためには、顧客は12個の「カントリー・メダル」を Yesmywineが設定する所定の順番で集める必要がある。たとえば、1月はフランス産シャルドネの購入を指示されるかもしれない。2月はオーストラリア産のレッドワイン、3月はアルゼンチン産のマルベック……などといった具合だ。
あまりに制約が多いので、一見すると、このプログラムが顧客を引き付ける可能性が低いように思われる。しかし、そう結論づけるのは早計かもしれない。目標をどう設定し、どう追求すべきか。Yesmywineは、そこに直観的ではない手法を編み出したようである。そして、彼らが得た知見はワインの販売促進だけでなく、マネジャーがチームの目標を設定する際にも役に立つだろう。
目標を選ぶときには柔軟性が与えられるほうがいい。ほとんどの人がこのように言うことはご存知だろう。大抵の人は自分の行動や行為を予測するのがあまり得意ではないという事実と考え合わせれば、これには納得がいく。目標設定にいくらか融通の利くアプローチを選べば、将来的に微調整できる余地があるからだ。
だが、一旦設定した目標を追求する場合には、同じ理屈は当てはまらない。実際、目標を設定した後は、そこに至るまでの手順が厳格に制限されている場合のほうが、目標を達成する可能性がはるかに高いのである。
スタンフォード・ビジネススクール助教授(マーケティング)ズーチ・ファンらの研究チームが実施した、一連の調査を例に取ろう。
ある街のヨーグルト・ショップが、通常の購入を6回すると1回分のヨーグルトが無料になる特典が得られるポイントカードを常連客に発行した。ただし、すべてのポイントカードが同じわけではなかった。特典を受ける条件として、ポイントカードの半数では、6つの異なるフレーバーのヨーグルトを任意の順番で購入することが求められた。また残りの半数では、6つの異なるフレーバーを店に指定された順番で購入する必要があった。具体的には、顧客はバナナ、リンゴ、ストロベリー、オレンジ、マンゴー、そしてグレープの順番で購入しなければならなかった。
柔軟なスキームを提示された顧客は、所定の順番で購入しなければならないと告げられた人たちよりも、このプログラムに参加する確率が約2.5倍と、著しく高かった。だが、課題の達成については、逆の結果であった。すなわち、極めて厳格な順番で購入しなければならないポイントカードを付与された顧客のほうが、目標を達成する確率が75%以上と、はるかに高かったのである。
柔軟なスキームのほうが明らかに、顧客にとって目標を受け入れやすかった。にもかかわらず、その柔軟性が実際には目標達成を妨げることになった。なぜだろう。
その答えは、意思決定力の限界と関係がありそうだ。さまざまな研究によれば、我々は1日に、多ければ3万5000件もの決定を迫られる。したがって、すでに情報過剰の状態にあり、決めることに疲れ切った働き手にとって、決定すべき事柄は増えるのではなく減るほうがありがたい。そして、まさにそれを可能にするのが、目標を厳格に追求するアプローチなのだ。
目標達成への手順を事前に設定することで、計画を遂行するときに生じる不要な「決定点」の数が削減されるか、あるいは完全に削除される。その結果として、達成率が高まるうえ、目標がより取り組みやすく感じられる可能性もある。