日本全体が人手不足で、企業は希望通りに人員を補充できない状態が続いている。しわ寄せは今いる従業員におよび、精神疾患障害が増えている。最新号の『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』9月号では、長時間労働や仕事のストレスに負けない「燃え尽きない働き方」を特集した。

うつ病など精神障害の
労災補償が過去最高を記録

 労働環境についてのいろいろな統計数値が、人手不足の深刻度を示しています。厚生労働省が7月28日に発表した6月の有効求人倍率(パートタイムを含む)は1.51倍で、バブル期の1990年7月(1.46倍)を超えました。

 正社員に限った有効求人倍率は1.01倍で、2004年の調査開始以来、初めて1倍を超えています。求人数が求職数を上回り、企業は正社員のなり手を見つけにくい状況になっています。人手不足が、経済成長の阻害要因になりつつあります。

 人手不足なのに、人員を補充できないと、今いる従業員にしわ寄せが来ます。6月30日に厚労省が発表した「過労死等の労災補償状況」では、2016年度はうつ病など「心の病」を発症して労災を請求した件数が1586件となり、4年連続で過去最多を更新しました。また、業務上疾病として支給決定した件数も498件となり、2002年の調査発表以来、過去最多に達しています。

 そこで本誌では、少ない人数で多くの成果を上げる「生産性」向上の必要性について、7月号で特集しました。一方、今号は、より喫緊の問題として、現場で起きている過重労働から派生する「バーンアウト」(燃え尽き症候群)に焦点を当てています。

 特集1つ目の論考は、バーンアウト(燃え尽き症候群)とは何か、どのような症状となるか、いかに対処すべきかを端的に著しています。「バーンアウトとは仕事上の慢性的ストレス要因への反応として表れる」、「消耗感、冷笑的態度、無力感」という3つの症状として表れます。そこからの回復と予防の戦略として、「自分のことを相対的に優先させる」「考え方を変える」「ストレス要因との接触を減らす」ことを挙げ、具体策を論じます。

 特集2つ目の「バーンアウトの論点」は、3つの短い論文で構成されています。第1論文は、従業員のバーンアウトは企業の問題であることを明確にして、増加要因を分析します。近年、従業員間のコラボレーションや情報共有のためのメール活用は生産性向上や業務改善に有効な手法として奨励されてきましたが、その一方で、打ち合わせやメール処理などの新たな業務が増加しています。

 こうした認識されざる仕事の増加や、働きすぎが当たり前になっている風潮、有能な従業員に業務が集中してしまう傾向など、企業が直視してこなかったところにバーンアウトの要因があると指摘します。

 第2論文は対処策としてマインドフルネスを取り上げ、一呼吸の「間」を持つことの効用を説き、その活用事例を紹介しています。第3論文は、プレッシャーがストレスに変わってしまう要因は、負の感情を繰り返し考えてしまうことにあるとして、それを打破する方法を提示します。

 1つ置いて特集4つ目は、人間関係を研究した名著『GIVE&TAKE』の著者アダム・グラントほかの論文「『いい人』の心を消耗させない方法」。いい人は貴重な人材であるがため、他人からの頼み事が増え、燃え尽きてしまいがちであるという事実を踏まえて、その防衛策を提言しています。ここまで紹介したのはハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の論文ですから事例の舞台は米国ですが、違和感なく読め、日本の職場と事情が同じことに驚かされます。

 従業員が働きすぎになりがちな日本企業において、改善のモデルとなるのが、特集3つ目で登場するアウトドア用品の製造販売大手であるスノーピークです。社長の山井太氏は自らが過労で倒れる経験により、経営の課題は長時間労働によって解決できるものではないことを悟り、会社全体の働き方を変えていきます。その思考の変遷と活動はとても参考になります。

 特集5つ目で取り上げたロート製薬は、以前から社員の健康増進を選任に行う部署を設けるなど一歩先を行く会社です。健やかに働くことは大前提として、仕事を通して従業員が成長し、価値観が広がることを目指しています。そのための一つの取り組みとして副業を認めるという施策を始めました。多様な働き方として注目されます。