ビッグデータがなくても、日本が勝負できる領域はある

――研究開発人材の不足とも関連しますが、日本のAI研究は、欧米に比べて遅れているともいわれます。ドイツや英国でAI開発プロジェクトに携わった経験も踏まえ、現状をどうご覧になりますか。

 私が欧州にいた10~15年前は、北米vs欧州vsアジアという3極構造でしたが、いつの間にか米国がダントツの一強で、欧州の地位は低下。よい研究者は世界中から米国に流れています。一方、アジアでは現在、中国が強く、日本の存在感は薄くなっています。これは産業界の動向が大きく影響しています。GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と呼ばれる米国のIT企業は、2000年頃からAI人材を積極的に採用してきました。それが何を意味するのか、当時の学術界はあまりピンとこなかったのですが、その後の躍進を見れば明らかです。

――何故、AI人材だったのでしょうか。それらのIT企業はAIを活用して何をやるのか、当時から明確だったのでしょうか。

 当時は検索エンジンの開発に機械学習の技術をどうやって活用するか議論されていたようです。それが、EコマースやSNSなどのサービスに波及していきました。これらのIT企業では、優秀な人材がさらに優秀な人材を引き寄せることで、米国は一強の地位を確立していったのです。この状況は少し心配ではありますが。

――彼らがデータを集めることで、米国はビッグデータを手に入れました。一方、日本にはビッグデータがないからAI研究が立ち遅れたとする見方もありますが。

 確かに、米国のIT企業はケタ違いのビッグデータを集めました。これは、なかなか真似できることはありませんし、日本で検索エンジンが開発できなかった時点で勝負はついています。しかし、必ずしもデータがあればいいというわけでもありません。まだまだ日本が勝負できる領域はあります。たとえば、医療は人種依存性も強く、国内で取り組む価値がある領域です。幸い日本は医療サービスの多くが公的機関によるもので、比較的質の高い医療データも揃っています。ビジネス分野において、米国企業と同じゲームで戦うのは難しいですが、アジア市場をターゲットにニッチな領域を見つけていけば、国内産業の発展に資することはできるでしょう。