予測だけでなく、因果関係の推論に役立つ技術開発も

――日本がAI研究でグローバルな競争力を獲得していくには何が必要ですか。

 短期的には正直難しいですが、中長期的には基礎技術が重要になります。ディープラーニングが現在ブームですが、ディープラーニングですべてが解決するわけではありません。まだまだ解けない問題はたくさんありますから、そこに向けて、新しい技術をコツコツ開発していくことは絶対に必要です。いまは誰も興味を持っていないけれど、新たな方法でアルゴリズムを開発していけば、10年後に主役となる可能性はあります。

 現在のAIは、ビッグデータを使ってディープモデルをトレーニングする方法が主流ですが、世のなかの多くの問題には、ビッグデータが存在しません。いつの時代も、少ないデータから学習することは究極の課題です。単に予測することや相関関係を見るだけでなく、因果関係を見たいという要請も昔からあり、少しずつではありますが技術開発は進んでいます。その流れを絶やすことなく続けていくことで、10年後に花開くかもしれません。

――AIが本格稼働する未来社会について、どのようなイメージを描いていますか。

 AIというと派手な印象を持つ人も少なくありませんが、基盤となるのは数学とプログラミングで、その研究は非常に地味です。AIPセンターでは、国内でこれまでないがしろにされてきた、その地味な基礎研究をコツコツ行っていきます。

 連日のように新聞紙上にAIの文字が躍っていますが、かつてのITがAIに置き換わっただけ、との印象を持ちます。機械学習について長らく研究に携わってきた立場からすると、AIはITの最先端のものであり、ツールに過ぎません。

 ITの進展が絶え間なく続いているように、AIの要素技術の開発も続いていきます。それは決して不連続な変化ではなく、より高度なものへと加速度的に進化しています。技術革新によってなくなる仕事はいままでもありましたし、これからもあるというだけのこと。AIが人間に取って代わるというのはSF的な発想で、研究者としては現在の技術の延長にあるとはとても思えません。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)